他の人と一緒のときは、髪形や服装を記憶するのに忙しかったから。
それくらい彼は安心できるのかもしれない。
はしゃいで見せたものの、本当はすごく緊張している。
これから電車に乗って……たくさんの人とすれ違って……と考えると、胸がザワザワとざわめくのを感じる。
「怖い?」
「えっ?」
先輩は、私の気持ちなんてお見通しらしい。
「……ちょっと、怖い」
私は正直に話した。
「限界だと思ったら教えて。すぐに帰るから」
「……うん」
私の手を握り直した先輩は、優しく微笑んだ。
“デートの行き先の希望調査”は昨晩電話でされた。
デートといえば……映画や遊園地?と思ったものの、映画は……顔を判別できない私にとっては苦痛でしかない。
次々とスクリーンに映し出される人達が誰なのかわからなくては、ストーリーも当然わからない。