「哲哉だよ」
先輩の第一声はいつもこれ。
その声を聞くたびに、毎日のように会っているのにわからなくて申し訳ないと思うものの、わからないのだからどうしようもない。
「おはようございます」
「行こうか」
差し出された大きな手をギュッと握ると、彼は優しく微笑んだ。
「莉子、今日オシャレじゃん」
先輩に褒められると、照れくさい。
「先輩だって、オシャレじゃん」
いつもの白いエナメルバッグが今日はない。
黒いシャツにワンウォッシュのジーンズを合わせた先輩は、相変わらずカッコいい。
「俺はいつもこんなじゃん」
「そうだっけ?」
そういえば最近、先輩と一緒にいるときだけは、服装を注意深く観察していない。