哲哉先輩はほとんど毎日、家に来てくれた。
なかなか外に出かけられない私を気遣ってのことだと思う。
「先輩、勉強進んでる?」
先輩は午前中に塾の夏期講習を終えてくる。
「うーん。塾よりここの方がはかどるかな。
莉子が頑張ってると、負けられないなと思うから」
先輩はいつだって優しい。
先生のいる塾の方がはかどるに決まっているのに。
「今日はプレゼントがあるんだー」
私は先輩への感謝の気持ちを込めて、パウンドケーキを焼いていた。
「莉子が作ってくれたの?」
「うん。レーズン入ってないから」
私がそう言うと、「子供みたいだな、俺」と笑う。
「ヤバ。うまい」
「ありがと」
先輩の笑顔を見ていると、嫌なことも忘れられそうだ。