一階に降りると、広いイベントスペースでなにか開催されるらしく、人だかりができていた。

思わず哲哉先輩の手をギュッと握ると、先輩も握り返してくれる。

顔がわからないというのは、その他の機能をフル稼働させて周りを見なければならないということだ。

緊張で手のひらに汗をかいていることに気がついた私は、一瞬、手を離そうとした。
だけど、より強く握り返してきた先輩は「離さなくていい」と小声でつぶやいた。


「莉子じゃん」


イベントスペースをやっと抜けたところで、誰かが私の名を呼んだ。


「久しぶり!」

「えっと……あのっ……」

「もしかして、彼氏? かっこいいじゃん」


次々と言葉を投げかけられて、しどろもどろになる。