「お母さん、ごめん、ね」

「いいの。いいのよ」


声を震わせる母は、もしかしたら私以上に苦しんだのかもしれない。
それが親というもの、なのかもしれない。


「今日の夕飯、なににしようかね。
パートの帰りに買い物してくから」

「私、カレーがいいな」

「わかった」


母は涙をこぼしながらも、目尻のシワを一層深くして、にっこり笑う。


「莉子。仕事の邪魔になるから、そろそろ」


私達の様子を遠くで見守っていてくれた哲哉先輩が近づいてきて、私の腕に触れる。


「莉子を連れてきてくれたのね。ありがとう」

「いえ。失礼します」


にっこり笑った先輩は、母に一礼してその場を離れた。


「先輩……ありがとう」


最初は響ちゃんを忘れるためだった。
だけど、先輩の優しさに触れるたびに、この人の彼女でよかったと思う。