「莉子。哲哉だ」


もう葉も散ってしまった桜の木の下に座っていた哲哉先輩は、私を見つけて立ち上がった。


「先輩……」


千春と芽衣が行ってしまって、その人が先輩だと確信した瞬間、張りつめていた気持ちが緩んで涙がポタリと落ちる。

皆が協力してくれて、大丈夫だと思っていた。
だけどやっぱり事故の前の様にはいかない。


「莉子、よく頑張ったね」


先輩は私に近づいてきて、頭を撫でてくれる。
小さな頃、お姉さんぶった私が、響ちゃんにしていたように。


「疲れただろ?」


先輩は私の頬の涙をそっと手で拭いながら、にっこり笑ってみせる。


「……うん」


こんなこと、千春や芽衣にも言えない。
協力してくれている友達に、「疲れた」なんて言えない。

だけど、不思議と目の前の先輩には吐き出してもいい気がした。