授業自体は、さほど困らなかった。

休んでいてわからないところは、芽衣がこっそり教えてくれた。


それでも、移動教室の時は緊張の連続だった。
廊下ですれ違う他のクラスの人達はもちろんわからなかったし、制服でないからわかる先生達も、誰だか判別がつかなかった。


「莉子、怖い? 手、つなごうか」


オドオドしている私に、右隣を歩く千春が手を差し出した。


「うん。ありがと」


すると左の芽衣も、教科書を持つ左腕につかまった。


朝、哲哉先輩も私の手を握ってくれた。
こうして誰かの体温を直に感じていると、少し落ち着く。


同じ制服だらけの怖い廊下をなんとか過ぎると、音楽室だ。

もう少しで音楽室に入れる、と思ったとき……私の耳に聞きたくなかった声が届いた。