「お、長瀬来たぞ」


後ろのドアから恐る恐る顔を出すと、私を見つけて大きな声を出したのは、井上先生だった。


井上先生だとすぐにわかったのには理由がある。

先生は太いペンで“井上”と書いたカードを、首から下げていたからだ。

もともと先生達はそういったものをつけてはいたけど、あんなに大きな字では書かれていなかった。

それに……それだけじゃない。
よく見ると、クラスの皆が同じように……。


「私達もあるんだよ」


千春がカバンから取り出したのは、“阿部千春”と書いた手作り感いっぱいの名札カード。
生徒はもともと名札がないから、作ってくれたんだ……。


「平松先輩が先生に頼んでくれたの。
こうすれば莉子だってわかりやすいからって。
で、学級会で満場一致。
我がクラスはこの名札をつけることになりました」