「体調、よさそうね。勉強も進んでるみたいね」


広げてあったノートを手にした先生は「古典ね。懐かしいわ」と目を細めている。


あれから、期待していた響ちゃんは、一度も来てはくれなかった。

だけど、哲哉先輩が寂しさをうめてくれた。
和代先輩と響ちゃんのキスを見た後のように。


「実は、そろそろ退院どうかなと思って」


夏未先生は、「焦らなくてもいい」と言ってくれてはいたけれど、このままではずっと退院できそうにない。

顔を判別できない私にとって、外の世界は怖いところでしかないから、あまりに病院の居心地がいいのだ。