足の骨折がさほどひどくなかったこともあり、リハビリも順調で、本当ならば通院でもOKだった。
入院期間を長引かせていたのは、私の気持ちの問題だ。
だから、一週間ほど前からは、整形外科の病棟から、心療内科の病棟に移動していた。
こちらの方が個室が使えるからとの、夏未先生の配慮だ。
まだ不特定多数の人とかかわることなんて、どうしてもできなかった。
リハビリ室でも理学療法士以外とは、誰とも会話を交わさなかった。
次に行ったときに、挨拶すらできないからだ。
夏未先生の言っていた“先にカミングアウト”を実践するには、まだまだ勇気が足りない。
フェイスブラインドという症状が世に知られていない今、そんなことを言ったってバカにされるんじゃないかと考えると、どうしても口に出せなかった。