誰? 響ちゃん?
私のために先生に頭を下げてくれた響ちゃんが来てくれたに違いないと、思った。
だけど……。
「哲哉、だ」
その人の口から出た名前は、違っていた。
確かに、白いエナメルバッグを持っている。
「先輩……」
もう来ないかもしれないと思っていたのに、先輩は来てくれた。
顔を認識できない彼女なんて、面倒なはずなのに。
いや、でも……別れ話をされるのかも。
ゴクリと唾を飲みこむと、先輩は椅子に座った。
「久しぶり、だね」
「……うん」
少しバツの悪そうな顔をした先輩は、意外にもにっこり笑った。
「ごめん。俺、ちょっと考える時間が欲しくて……。
辛いのは莉子なのに、すぐに来られなかった」
「えっ?」
それは、どういう、意味?