「カミングアウト……」


そんなことを言ったって、簡単なことじゃない。


「難しく考えないで。
なにも、どの人にもフェイスブラインドを一から説明しなさいって言うんじゃないの。
誰かと話し始める前に、『私は人の顔を覚えるのが苦手です。だから今度またお会いした時に初めましてと言ったらすみません』と先手を打っちゃうの」


いつの間にか涙が止まっていた。

夏未先生とは未来の話ができる。
立ち止まっている場合じゃないと思わせてくれる。


「できるかな、私……」

「フェイスブラインドって、別に恥ずかしいことじゃないのよ。
むしろそういう症状に苦しむ人がいるって、もっと知ってもらえたら、少しずつ暮らしやすい環境が整うはず。
すぐにという訳にはいかないから、根気のいる作業だけどね」