「莉子ちゃん。私、今どうしたかわかる?」

「えっ?」


脈絡のない会話に驚いてそっと顔を出すと、「見てなくても、椅子に座ったってわかったでしょ」と笑う。

私がうなずくと、先生は続けた。


「音、だよね。
莉子ちゃんは、私が整形の男の先生とは違うこと、髪形や化粧、それと声で見分けたでしょ? 
人を区別するには顔だけじゃなくて、いくつかの要素があるの」


それには納得だ。
私も懸命に情報を集めているから。


「失った機能をカバーするための機能は、ドンドン研ぎ澄まされてくるのよ。
目が見えない人は耳が発達するし、耳が聞こえない人は目が良かったりね。
おそらく莉子ちゃんはこれから目から入ってくる情報の処理が早くなっていくと思う。
テレビドラマは、厳しいかもしれないけど」