「内緒でお散歩」
私を車椅子に乗せた先生は、そのまま病院の屋上に向かった。
「星……」
真っ暗な病院の屋上からは、美しい星が見える。
「きれいでしょー。疲れたらここで時々サボるんだ」
夏未先生は私の横に並んでしゃがみこむ。
「莉子ちゃん、きれいなものわかるでしょ」
「えっ?」
夏未先生が言わんとすることがなんとなくわかった。
私は、全部失った訳じゃない。
「先天性――つまり、生まれつきの人はね、長い間自分がフェイスブラインドだって気がつかずに苦しむの」
先生は悲しげに微笑みながら言葉を紡ぐ。
「この症状は、一般的に良く知られているとは言い難いでしょう?
だから、顔を覚えられないのは注意力や努力が足りないっていつも責められて……心のバランスを崩して私のところに来る人も多いのよ」