「莉子ちゃん。夏未です」


夏未先生が走り込んできたのは、それから二十分ほどしてからだった。

Tシャツにジーンズ姿。
髪はひとつにまとめてあったものの、スッピンだ。


暴れて息が上がった私を見ても、先生は少しも叱らなかった。


「押さえてごめんね。深呼吸して」


ひとりの看護師と交代した先生は、私の肩を押さえながら、「はい、もう一度」と落ち着いた口調で話しかける。

先生があまりに落ち着いているから、ハッと我に返ることができた。


「よく頑張ったわね。もう大丈夫かな?」

「ごめんな、さい」

「うん」


先生は目配せして、看護師を部屋から出した。

夏未先生がこうして来てくれただけで、不思議と荒立った心が落ち着きを取り戻していく。


「ごめんなさい、私……」