「ご両親の顔も判別できないとなると、程度で言えば重症なのかもしれません。
ですが、表情の変化はおわかりになるようで、それはよかったと考えています」


そんなの気休めだ。
いくら表情の変化がわかったとしても、誰と話しているのかわからないって……サイアクだ。


「相貌失認は、先天性のものもあり、二パーセントほどの人に出る症状だと言われますが、専門医の間ではもう少しいると言われていて……」


それから続いた脳外科の先生の話は、半分も耳に入ってこなかった。

すがるように夏未先生に視線を送ると、険しい顔をして私を見つめている。


「莉子、大丈夫だよ。
お父さんもお母さんも、莉子のこと守るから」


そう言った母は、言葉とは裏腹に少し震えていた。