やっぱりフェイスブラインドの原因は、今の医学ではわからないらしい。
とにかく脳に異常がないかどうかを調べないといけないのだ。
そして、夏未先生が改めて顔認識のテストというものをしてくれるのだとか。
「バームクーヘン、食べられたのね」
母に聞こえない様に私の耳元で囁いた先生は、「あとでもう一個差し入れするね」と出て行った。
午後からの脳外科の検査は、ただ横たわっているだけで終わった。
だけど……母の『もしかして』の言葉がどうしてもリフレインして、期待せずにはいられない。
脳の手術なんて怖くてたまらないけど、それでも一生誰の顔もわからないよりはましだ。
その後の顔認識テストは、あっという間に終わった。
その日も、千春と芽衣はやってきた。
「莉子―。千春だよ」
「ということは、私は芽衣ね」
冗談めかしてそう言う芽衣にクスクス笑う。