「はい」

「えらいじゃない。上出来」


先生の笑顔は、とても柔らかい。


「少しは泣けた?」

「えっ?」

「辛いことはね、吐き出して誰かに聞いてもらったりしながら、薄めていくしかないの。
突然、なくなったりはしない。残念だけど」


『薄めて』、か。


「怒りでも悲しみでもなんでもいい。全部全部吐き出しなさい。
私で良ければ聞くよ?」


先生は不思議な人だ。
会ったばかりとは思えない。


「莉子ちゃん、我慢強そうなんだもん。彼氏には吐き出せた?」


私が小さく首を振ると、先生は「やっぱり」とつぶやいた。


「でも……」

「でも?」

「響ちゃん――幼馴染なんですけど……の前で、泣いちゃいました。
それで、ひどいこと、言っちゃったんです、私」

「そうなの?」


夏未先生は、意外にも口角をあげて微笑んだ。