「そんなことって……」


哲哉先輩は完全に言葉を失くして、視線を宙に舞わせている。
私は動揺する先輩の姿を、どこか他人事のように眺めていた。

響ちゃんに話した時とはなんとなく違う。
先輩の前では涙をこらえた。


「ごめん。頭の中がグチャグチャだ」


しばらくの沈黙の後、先輩はやっと口を開いた。


「そう、だよね……」

「落ち着いて考えてみる。また、来るよ」


去っていく先輩の後姿に、視線を這わせる。

先輩は、もう来ないかも、しれない。

なんの根拠もない直感だ。
だけどそう感じた。

それでも、不思議と響ちゃんが出て行ったときのような辛さはなかった。