響、ちゃん?
一瞬ドクンと心臓が跳ねた。
やっぱり心配で戻ってきてくれたの?
響ちゃんの名前を口にしようと思ったけれど、今度は注意深く観察を始めた。
彼が持っているエナメルバッグは、白だ。
ということは、響ちゃんではない。
哲哉先輩?
「莉子、心配したよ」
私の方に近づいてきたその人は、バッグを床に置いて丸椅子に座った。
「大丈夫、か?」
彼の左手に包帯が巻かれている。
たしか、先輩もかすり傷を負ったはず。
それならやっぱり、哲哉先輩だ。
「哲哉、先輩?」
「おぉ、災難だったな。だけど、無事でよかった」
当たり、だ。
だけどやっぱり、彼氏の顔もわからない。
私はこうして生きている。
おそらく怪我も、すぐに治る。
だけど……。