行かないで、響ちゃん。


出てけと言ったのは私。
だけど、本当はずっとそばにいてほしい。


お父さんやお母さん、芽衣や千春とも違う安心感が、彼にはあるから。

私の勝手な心の叫びは当然伝わることがなく、ドアはゆっくり閉まった。


それからはひとしきり涙を流した。

頭の中は響ちゃんのことでいっぱいだ。
それなのに……彼の顔は思い浮かばない。

どうして……どうして、こんなことになっちゃったの?


どれくらい経っただろう。
再び病室のドアがノックされた。


夏未、先生? 
先生は母を帰した代わりに何度ものぞきに来て、少しずつ話を聞いてくれていたから。


「はい」


涙をゴシゴシ拭いて返事をすると、ドアを開けたのは、清和の制服を着た男の子だった。