「莉子、退院するまで毎日来るね」

「いいよ、忙しいのに」


そう口にしたものの、本当はうれしかった。
ふたりと話していると気が紛れる。


「ダメだよ。だって数学教えてもらわないといけないもん」

「は? けが人に頼ろうとしてるわけ?」


千春を軽くにらんだ芽衣は、今度は私に笑いかけ「私達が来たいの」と言ってくれた。


ふたりが帰ってしまうと、途端に病室が寂しくなった。

どこからか聞こえてくるモニターや、ナースコールの音。
ツンと鼻にかかる消毒の匂い。

独特の病院の雰囲気は、どうも好きになれそうにない。


だけど……この部屋を一歩出たら、知らない人だらけなのだ。

点滴を交換してくれた看護師も、主治医の整形外科の先生も、夏未先生も……誰ひとりとしてわからないのだから。