「でもさ真夏、それはおまえ、言えた義理じゃねえんじゃね?」


目だけを順平くんに向けた。順平くんは意地の悪そうな顔で笑って、クッキーを一口ぱきりと齧った。


「だっておまえなんて、一言も喋ったことねえ、一目見ただけのやつのこと、ずっと好きだったんだろ」


おまえのがよっぽどひどいじゃねえか。順平くんが笑いながら言う。

お腹までの毛布を引き上げて頭までかぶった。


「順平くんキライ」

「そうかよ」


全部が見えないように毛布にくるまる。頭の先から足の先まで。隠れるみたいに。もうほんとサイアク。

ああ、顔あっついな。クーラーの温度上げてもらわなきゃよかった。熱い。やだ。何がやだって、それは当然、言い返せもしない自分のことが一番いやに決まってる。


確かにそうなんだ。人のことは言えやしない。

ほんの一瞬遠目に見ただけで、向こうはおれのことなんて少しも見ちゃいなかったのに。

ずっとその人が頭から離れなくて。こんな風に思うの初めてで。

自分でもびっくりなんだ。星空を見るとき以外でこんなにも世界が綺麗に見えたのは他になかったんだから。

体の真ん中がぎゅうってなる。それはいつまでも消えないで。

一番星みたいにきらきら光ったまま、その人はずっと、おれの中にいたんだ。