「真夏くん、ちょっと、いい?」
呼ばれたのはお昼休みに入ったときだった。授業が終わってパンを買いに行こうと立ち上がったタイミングで、見計らったみたいに女の子がおれの席の前に来た。
最近多いな。夏休み前だからって、誰かが言ってたけど。
なんで夏休み前だと多くなるのかはわからない。正直、ちょっとめんどくさい。
「好きです。付き合ってください」
やっぱり。何度目だろう。昨日も別の人に言われたな。この間なんて昴センパイに見られちゃってたみたいだし。
校舎の南の端の踊り場。ちょっと来てって言われてここまで来て、その間に何言われるかなって考えてみたけれど、結果はやっぱり、思い浮かんだこととなんにも違っていなかった。
好き。だって。
泣きそうな顔、そんなに緊張してるのかな。
目の前の女の子は顔だけじゃなくて耳まで真っ赤に染まっている。目は伏せたまんま、前で両手をぎゅって握って。
「ずっと……真夏くんのこと好きだったんです」
「ずっと?」
「うん……入学式で初めて見たときから、素敵だなって思ってて」
可愛い子だ。小さくて、髪の毛さらさらで、本当に女の子って感じの子。確かおんなじクラスのはずだけど……名前は何だっけ。覚えてないや、申し訳ないな。
たぶん、あんまり喋ったこともないんだと思う。もしかしたら初めてとかかな。少なくともおれは覚えがないよ。
おれは、きみを全然知らない。
じゃあ、だったら。
だったらきみは、おれを。