さゆきは中学の頃あたしと同じ部活……陸上部に入っていた。
スプリンターで専門は100。陸上を本格的に始めたのは中学に入ってからだそうだけど、2年に上がった頃からぐんと力を伸ばし始めた実力のある選手だった。
小柄なのにとても力強い走りをする。目の前の空気の壁を突き抜けるみたいにして駆けていく姿は迫力があって、爽快で。
走るのが大好きなんだって、そういう思いがひしひしと伝わってくる。だからあたしは、さゆきの走りが好きだった。
今も、さゆきは陸上部に所属している。
今年の新入生唯一の短距離選手で、かつ実力も経験もあるさゆきのことは、高良先生も大いに期待しているみたいだった。
「先生言ってたよ。さゆきはうちの次期エースだって」
ついこの間、高良先生から聞いたことを思い出す。今の2年には短距離が得意な選手がいない。3年生が引退をしたら次のスプリンターとしてのエースはさゆきだって、高良先生は言っていた。
異論はない。さゆきは今、うちの高校で一番のスプリンターだ。まだ1年生だけどすでに全国でも上位を狙えるほどの実力がある。
「でもまだ昴センパイほどじゃないです。だって、センパイはもっと速かったから」
さゆきが、一度目を逸らして。それからまた、少し表情を変えた視線であたしを見上げた。
「センパイ……陸上部に戻らないんですか?」