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ようやく梅雨が明けたのに、梅雨の時期にあんまり降らなかった雨が今になって降り出した。
夜中からの中途半端な雨空は、昼を過ぎた今になっても続いている。
「あーあ、雨ってほんとやだよ、外で練習できないしさあ」
「テニス部も室内コート作ってくれればいいのにねー」
「ほんとだよ。午後練も筋トレかピロティで壁打ちだよーやだなー」
グチる絵奈をなぐさめながら、いつもよりも少し暗い廊下をぺたぺた歩いていた。窓の外は、どんよりと黒い雲が空にふたをするみたいに敷き詰められている。
これじゃあさすがに星なんて見えないなあ。そう思っていたとき、ふと、名前を呼ばれて振り向いた。
「昴センパイ!」
「あ……さゆき」
茶色く焼けた肌に短い髪。手を振りながら廊下を走ってきたのは、同じ中学の後輩のさゆきだった。
さゆきはあたしの側まで来ると、あたしを見上げながら嬉しそうに笑った。
「センパイが見えたのでつい声かけちゃいました! 見かけるのすっごい久しぶりなんですもん」
「そうだよね。でもさゆきのことは高良先生から聞いてたよ、部活頑張ってるってさ」
「はい! あたし、この間の大会で優勝したんですよ。それに自己新も出せて」
さゆきが、顔の横で大きなピースを作る。