今まで、どうして気付かなかったんだろう。
きっと先輩しか見えてなかったからだ。
「……菜々。わかっちゃったよ、私。先輩の好きな人……」
「え?」
わかっちゃった。わかってしまった。
先輩のこと、誰よりも見てたつもりだからあの嬉しそうな笑顔を見ただけでわかる。
先輩の、内村先輩の好きな人は、梨花先輩だ……。
梨花先輩は、すごく可愛くて誰にでも優しくて、女の子なら誰でも憧れてしまうといってもいいぐらい、素敵な人。
私なんかが、そんな先輩に勝てるわけがない。
無理だよ、やっぱり諦めるしかないんだよ。
「帰ろう、菜々……」
「え、ちょっとかえでっ。いいの?」
いいも何も、どうしようもないんだもん。
それに、これ以上ふたりが楽しそうにしてるのとか、見たくない。
「付き合ってくれてありがとう。菜々、私やっぱり先輩のこと諦めることにする」
「かえで……」
まだ何も言ってないけど、さすがは私の親友の菜々。私の気持ちを察してくれたみたいで、「そっか、わかった」と微笑んでくれた。
練習の邪魔にならないように、なおかつ先輩に気付かれないように、こそっと体育館をあとにしようとした時だった。
「あれ?君たちどうしたのー?」
私たちに気付いたらしいバスケ部の主将さんが、明るく声をかけてきた。