「柊先輩っ!」


先輩の前に飛び出した。
運が良かったことに、先輩は今日はひとりで体育館に向かっていたらしく、周りには誰もいない。


「か、かえでちゃん?」


私の突然の登場に先輩は驚いていたけど、私はそれよりも先輩に名前を覚えてもらえていて、さらには名前で呼んでもらえてることがすごく嬉しかった。


「あの、今日家庭科でクッキー作ったんです。よかったらもらってください!」


柊先輩の前にお菓子を差し出す。
どうか……もらってくれますように!



「……ありがとう」



優しい声が聞こえて顔をあげると、微笑んでいる先輩と目が合う。


「ていうか、俺がもらっちゃっていいのかな?」


「も、もちろんです!先輩の為に作ったんですから!」


そう、先輩の為に。他の誰でもない、大好きな柊先輩に食べてもらいたくて作ったの。


「あの、先輩。ロードレース大会の時のこと、ずっとお礼が言いたくて……」


「ロードレース大会?」


「私、怪我して走れなくなっちゃって、柊先輩に助けてもらったんです。それで先輩のこと好きになって。でも、まだお礼言えてなかったから……」


先輩は覚えてないかもしれないけど、私はあの時のこと、胸のドキドキまで鮮明に覚えてる。



「あの時は、本当にありがとうございました」