水樹先輩にその気がないなら平気だと思ってはいても、まだ不安になるのだ。

明日いなくなったら?

水樹先輩の意図とは関係なしに、隠されてしまったら?

そんな不安が、私の中で時々浮かんでは消えていく。


「大丈夫。偽者だってもう見てないだろ?」


──偽者。

それは、私が見ていた水樹先輩の幻だ。

屋上での事故の後に水樹先輩に確認したら、水樹先輩はあの日、全く違う場所にいたらしい。


きっと幻だったんだろうと水樹先輩は話した。

繰り返しすぎて、いつかの夏にいた水樹先輩の姿を幻のように捉えたのかもしれない、と。


中庭の掲示板を目指し歩きながら会話を思い出ていたら、ふと疑問が過ぎる。


「でも、どうして私だけ見えたんだろう」


口にした私に、隣を歩く水樹先輩がニッコリ笑んで。