「第3回 きみの物語が、誰かを変える。小説大賞」大賞
息苦しい毎日が嫌だった僕に君は、残酷な世界でも生きる理由をくれた――
『君と見つけた夜明けの行方』
[原題] 朝が来る前に、君の素顔が見てみたい
微炭酸 /著
イラストレーター:まかろんK
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【第3回きみの物語が、誰かを変える。小説大賞 by スターツ出版文庫】で大賞を受賞した微炭酸さんに、【きみ物大賞】攻略のツボをお聞きしました。
受賞後、微炭酸さんがnoteに公開した記事内の「ノベマ!が開催している主だった長編コンテストは【スタ文大賞】と【きみ物大賞】ですが、僕はそれぞれ求められている作品像が結構明確に違うと、勝手に思っています。」という発言の真意など、スターツ出版文庫の公式Xで募集した質問に答えていただきました!
編集:微炭酸さんはこれまでも何度かスターツ出版主催のコンテストにご応募いただいていますが、小説を書くにあたって意識していることなどを、寄せられた質問からピックアップしお聞きします。
<質問1>
良いアイディアが思いついたことで創作意欲が湧いて執筆を始めることが多いと思うのですが、書いている途中で自分の頭の中のアイディアを中々思うように上手に形にできなくて、自分に対して苛立ってしまうことが多々あります。苛立った状態だと文章が雑になるし意欲も下がるので執筆が進まないので、どうにか上手に言語化出来るようになりたいです。こういう時は何から始めればいいと思いますか?
微炭酸:上手く書けたときは気持ちいいのに、書けないときはすごく苦しい。よく分かります。僕もいつも苦しんでます(笑)
まずは何でもいいです。本を意識的に読むことをお勧めします。この言葉知らなかったな、こういう表現ってありなんだ。会話量と地の文の配分はどうなんだろうなど。いつも何気なく読んでいる作品も、内容ではなく文章に重きを置いて読み返してみるとたくさんの発見があります。僕はそうやって少しずつ表現できる幅を広げています。本を読まずに、本を食べる。この方法、すごくお勧めです。
<質問2>
書いても書いてもなかなか結果に繋がりません。書きたい物語があり、伝えたいテーマもあるのですが、落選ばかりで落ち込んでしまいます。「受賞に一番必要なのは才能」ですか。
微炭酸:落ち込んだり、焦ったりする気持ちとても分かります。実際、僕はそれで一度筆をおきましたから。しかし、受賞に才能は必要ありません。実際、僕は自分に才能があるなんてこれっぽちも思っていません。天才でもない限り、結局小さな積み重ねと運が大事なんじゃないかなと思います。先述した本を食べるも積み重ねの一つですし、とにかく書くことも積み重ねの一つです。と、これじゃ精神論ですよね。
現実的な受賞に必要な要素として一番大事だと思うのは、求められているものを書くことだと思います。まずは過去の受賞作を読んで賞の傾向を把握する。加えて、レーベル全体の傾向の変化も意識できるとより受賞に近づくんじゃないかなと思います。
今、スタ文ってとにかく色んなことにチャレンジしてますよね? モキュメンタリー、BL、デスゲーム、アンチ青春。あと、僕が個人的におっ?ってなったのは2024年10月刊の菊川あすか先生の『世界のはじまる音がした』です。女子×女子って、スタ文でありなんだ!と。
どうして、こんなに手広くやっているのか。色々な考えがあってのことだと思いますが、きっと今までのスタ文に無い何かを書ける人を求めているんじゃないかなと僕は思います。もちろん、ずっとそうだと思うんですが、最近はより強く求めているのかなと。
僕は、これ大丈夫かな?誰もこんなの書いてないし、攻めすぎか?くらいの物語を書いたら目を付けてもらえました。流行を捉えることも大切ですが、是非、あなたにしか書けない何かを詰め込んだ作品で勝負してみてください。
<質問3>
テーマや、物語のつかみとなるようなものはどうやって見つけていますか?また、【きみ物大賞】に限ると、どんな方向性のお話が求められていると考えていますか?(ファンタジー要素の有り無しや、切なさ苦しさなどの強さなど)
微炭酸:これ、僕も他の人の意見が気になります(笑) みんなどうやってテーマを見つけてるんですかね?
僕の場合、まずこの一文だけは絶対に入れる!これが決め台詞だ!という文章を考えます。それが、自ずと作品で僕が一番伝えたいことになっています。『君と見つけた夜明けの行方』で言えば、書籍版P150、Web版3章最後辺りの先生の台詞ですね。
物語のつかみについては、僕は物語を終わりから考えて逆算していく派なので、書き始める直前に決めるようにしています。
[テーマ・メッセージ性確定] → [軸になる設定、ラストやどんでん返しなどの要素の確定] → [キャラデザ→各所の山場決め] → [インパクトあるつかみを考える]といった具合です。
編集:小説を執筆する際に、考えていること、意識していることなどとても参考になりました!以前お打ち合わせをしていた際に「【きみ物大賞】に応募するにあたり、過去の受賞作を読み込んだんです。」とおっしゃっていましたが、作品をヒントにしていただき編集部が求めているものキャッチしていただいていてうれしいです。【きみ物大賞】に限らず毎月開催している【キャラクター短編小説コンテスト】も今後編集部が求めていく作品に近いことを募集要項に書いていますので、注目してみていただけると嬉しいです。
編集:それでは、次は【きみ物大賞】のツボについての質問をお聞きします。
<質問4>
【きみ物大賞】では、ボーイミーツガールで男女恋愛ものになり得るものでないと受賞は難しいと思いますか?主人公とは違う年代の大人、家族など、決して恋愛関係にはなり得ない相手の出会いで主人公が成長していくストーリーにしたいと思っています。
微炭酸:応募要項に「青春恋愛」としっかり明記されているため恋愛要素は必須として、主人公が変わるきっかけはヒロインだけでなくてもいいと思います。むしろ、他のキャラクターにも積極的に主人公を変えるような行動を取らせるべきだというのが僕の自論です。人は急に成長しないように、物語のキャラクターも色んな人との積み重ねがあって、何かのきっかけによって主人公が変わるんだと思います。
僕の作品では家族以外でインパクトのある大人を絶対に登場させるようにしています。少ししか登場しないけど、この人は絶対に必要だ。ヒロインだけじゃなく、この人がいないと主人公は変わらなかった。大人に限らず、そういう背を押してくれる存在がいた方がいいと思います。
編集:その通りだと思います。人ってなかなか変化をするのが苦手だと思っていて。なので、スタ文では主人公が変わるほどの魅力的な出会いや、大きなきっかけを意識して作家さんと作品を練っています。その中心にいるのが恋愛の相手になる人物だといいのかなと。微炭酸さんの受賞作『君と見つけた夜明けの行方』の中に少しだけ登場する先生も、主人公を変えるきっかけの一つと相談して、改稿では意識して先生との描写を増やすようにお願いしました!
<質問5>
微炭酸さんのnoteに「【スタ文大賞】と【きみ物大賞】でそれぞれ求められている作品像が結構明確に違うと、勝手に思っています。」と書かれていらっしゃいましたがどんなところが違うと思っているのか教えてほしいです。
微炭酸:これ、書いていいんですかね(笑) 全部の質問に回答しているので、ここに抜粋されている内容は掲載して大丈夫だという判定をもらったということで良いんだと思いますが……。あくまでも僕個人の予想という前提で読んでほしいのですが、近年の【スタ文大賞】向け内容と【きみ物大賞】向けの内容はかなり違うのかなと思っています。
簡単にまとめるとこんな感じです。
【きみ物大賞】に限って言えば、泣かせるというより、共感させる方が大事だと僕は思います。俯瞰して泣ける作品より、寄り添って感動できる作品が求められているのかなと勝手に想像しています。とは言え、有無を言わせない突き抜けて面白い作品で、テーマから外れていなければ、正直なんでもいいと思います(笑)
編集:審査する際も、【きみ物大賞】で言えば「共感」できるか、より等身大の悩みか、などを意識して審査していますね。
<質問6>
ファンタジーな設定はない方がいいと思いますか?
微炭酸:ファンタジーという言葉がどこまでを指すのか分からないので、明確には答えられませんが、SF要素などは必ずしもなしというわけではないと思います。例えば、舞台が過去もしくは未来の地球とか。タイムリープ、存在しない架空の病気など。もちろん、スタ文にはそう言ったSF要素を含んだ作品もたくさんあるので、舞台は異世界!とかじゃない限り問題無いかなと思います。
編集:たしかに、異世界スローライフ!とか、いわゆるファンタジーとして色の濃いもの、強いものはなかなか難しいのかなと思いますが、たとえば、丸井とまとさん『さよなら、灰色の世界』は主人公の悩みや葛藤からの成長感を描く作品ですが、「人の気持ちが色で見える」という特殊設定も入っています。なので、ない方がいいということはありません。
<質問7>
第4回のテーマを読み、微炭酸さんとしては前回のコンテストからの変更点をみて意識することはありますか?
微炭酸:応募要項にはほぼ同義と書かれていますが、僕目線ではかなり書ける範囲が広がったのかなと感じました。
「きみがずっと言えなかったこと」だと、後ろめたさや後悔、葛藤みたいなネガティブなものを想像するんですが、「きみが本当は誰かに言いたかったこと」だと、ネガティブな題材に限らず、ポジティブな内容でもいいのかなって思いますよね。例えば、実は私はこんなに頑張ってるんだよ、すごいでしょ?ということを誰かに伝えて認めてもらうだけの物語でもいいわけです。
とは言え、【きみ物大賞】で本質的に求められているものは前回と変わらないと思うので、是非応募要項と過去の受賞作品は熟読することをお勧めします。
編集:具体的なお話をありがとうございました! 編集部として意識している部分や、共通認識としてそれぞれの編集がもっている【きみ物大賞】についての考えなどが言語化されて、編集部としても楽しく聞かせていただきました(笑)!
編集:それでは、最後に微炭酸さん自身について質問きていますのでお答えいただければ嬉しいです!
<質問8>
ペンネームの由来を教えてください。
微炭酸:……覚えていない、が正直なところです(笑)
姓と名で分けているペンネームも候補がありましたが、結局微炭酸のままで落ち着きました。理由は、まあ自分に使うのがもったいないくらい気に入っている名前だったので、今後作品のヒロインに使おうかなと思ってます。(し)で始まって(く)で終わるキャラクターが今後、僕の作品で出てきたらそれです(笑)
<質問9>
恋愛小説を書く際で気を付けていることなどはありますか?また、ずばり微炭酸さんの“青春”とはどういうものなのでしょうか。
微炭酸:キャラクターが自分になりすぎないように気を付けています。無意識に自己を投影しすぎると、どのキャラクターも個性が似たり寄ったりになっちゃうんで……。
あと、心理描写は丁寧に書いてあげるようにしています。恋愛って、やっぱり口に出さないことの方が多いですし、面白いこと多いですもんね。
“青春”とはですが、後で思い返して少しでも経験してよかったなと感じる痛みがあればそれが青春だと思っています。嬉しい痛み、悲しい痛み、苦しい痛み、全部が僕の青春です。
<質問10>
なぜ「デビューするまでは地元を舞台にした作品を書く」と決めていたのでしょうか?
微炭酸:僕が一番青春を経験してきた場所だからです。後、僕の武器を活かすには深く知っている土地じゃなきゃ駄目だったからです。主人公の置かれている環境や住んでいる場所って、リアリティや共感性を促すのに非常に重要だと考えていて、そこで知らない場所を舞台にして妥協したくなかったというのが本音です。単純に地元への勝手な恩返し的な意味もありますが……。
編集:たくさんの質問にお答えいただきありがとうございました!今回の記事を参考にしていただきながら、あなただけのお話「本当は誰かに言いたかったこと」をテーマに小説にしていただけるのを楽しみにしています!
息苦しい毎日が嫌だった僕に君は、残酷な世界でも生きる理由をくれた――
『君と見つけた夜明けの行方』
[原題] 朝が来る前に、君の素顔が見てみたい
微炭酸 /著
イラストレーター:まかろんK