聖女の双子の姉に転生しましたが攻略対象の様子がおかしい~妹のために動いたら、私が落とされました~

学院の大広間に、白と金の装飾が施されていた。
天井から垂れる布が光を柔らかく反射し、燭台の炎がその金をゆらゆら揺らす。
普段は厳格で少し冷たい場所が、今日だけは祝福の色に染まっていた。

学年末式典は毎年盛大に行われる。
三年間の学業を修了した生徒たちへの讃辞と、次年度への抱負を語る場。
来賓として王族や貴族の代表が招かれ、学院が『外の世界』と繋がっていることを示す式典でもある。

私とセリアは正装で臨んでいた。
セリアは相変わらず、正装をすると特別な輝きが出る。
銀色の髪が光を受けてきらきらして、菫色の瞳が澄んでいて——『聖女』として申し分ない美しさだ。

私はというと——今日は、いつもよりほんの少しだけ気合いを入れた。

普段は『目立たないように』を意識する。
でも今日は、『ちゃんと』しようと思った。
セリアが選んでくれた淡いブルーグレーのドレスを着て、髪も丁寧に整える。
鏡の前で、何度も深呼吸した。落ち着け。私はただ、向き合うだけ。

「マリアンナ、今日きれいだよ」
「いつもきれいじゃないみたいに言わないで」
「いつもきれいだけど、今日は特別にきれい。——殿下に見せたいって思った?」
「……少し」
「かわいい」
「やめて」
「かわいいって言って何が悪いの」
「だって、セリアの方がかわいいんだもん」

セリアが小さく笑う。
その笑い方が、背中を押してくれる。
私一人じゃない、と分かるから。

式典は粛々と進んだ。
来賓席の一角に、クロードがいるのをすぐに見つけてしまう。
王太子としての礼装をまとったクロードは、学院にいた頃より格段に威厳が増していた。
立ち姿が違う。視線の落とし方が違う。周囲の空気の締め方が違う。

それでも。
私を見つけた時の目だけは——学院にいた頃と同じだった。
静かで、優しくて、でもはっきりと向かってくるような、翡翠色の目。

(……好き)

自分でそう思って、もう否定しなかった。
好きだ。それだけの話だ。逃げない。

式典が進み、各学年の代表が壇上で言葉を述べる場面になった。
三年生の代表はランベルトだった。

「この三年間、学院で多くのことを学んだ。剣の技術だけでなく、仲間を信じること、正しいことのために立つこと——そして、生き続けることの意味を」

ランベルトの声は落ち着いていて、凛としていた。
あの日『自分を守ることも大切』と話したことを、彼が覚えてくれているかは分からない。
でも『生き続けることの意味』という言葉を聞いた時、胸の奥が少しだけ温かくなった。
きっと、どこかは伝わっていた。

(よかった)

式典が終わり、歓談の時間になる。
セリアと並んで輪に入りながら、ちらりとクロードを探した。

探す必要はなく、クロードはすでに私を見つけていた。
目が合い、クロードが小さく頷く。——呼ばれている。

(……来るんだな)

心臓が少しだけ速くなる。
セリアが私の背中をそっと押した。

「気づいてたの?」
「殿下がマリアンナを見てたから」
「……もう」
「頑張れ」

セリアがにこっとする。
深呼吸して、クロードの方へ歩いていった。

クロードと並んで歩き、廊下の少し静かな場所へ移動する。
式典の喧騒が遠くに滲む、人が少ない廊下の端。
窓から入る光が柔らかくて、足音まで小さく聞こえる。

「久しぶり。元気そうで良かった」
「……殿下も、お変わりなく」
「少し変わったよ」
「どこがですか?」
「マリアンナのことを考える時間が、前より長くなった」
「……それは、私も——」
「照れてる?」
「照れてない!!」

クロードが笑った。前に会った時と変わらない笑い方だ。
でも確かに、一年前より少しだけ大人びている。
『王太子の顔』が濃くなったのに、私の前ではまだ、少しだけ柔らかい。

「手紙の返事、『楽しみにしています』と書いてくれたね」
「……はい」
「嬉しかった。マリアンナが楽しみにしてくれているのが」
「……」
「手紙に『好きだ』と書いてから、ずっと考えていた。直接会って言うべきだったか、と」
「……手紙で先に言ってもらったおかげで、心の準備ができました」