クロードからの手紙——
『マリアンナのことが好きだ』
——この言葉を受け取ってから、三日が経った。
三日間、私は平静を装い続けた。
授業では真面目にノートを取った。
食堂ではセリアといつも通りに会話した。
笑うところで笑って、頷くところで頷いて、『普通』を積み重ねた。
夜も、普通に就寝しようとした。
普通に就寝——は、できなかった。
布団に入って目を閉じる。
呼吸を整える。
……なのに、瞼の裏に文字が浮かぶ。
『マリアンナのことが好きだ』
たった一行。たったそれだけ。
なのに、何度でも浮かんでくる。
読んだはずなのに、また読む。読んだのに、また胸が鳴る。
「……マリアンナ、また起きてる?」
夜中の二時ごろ。
セリアが薄目を開けて、眠そうな声で言った。
「起きてない」
「天井を見ながら目がぱっちり開いてるのに?」
「……寝ようとしてる」
「考えごとしてる顔だよ」
セリアが寝返りを打って、こちらを向くと、暗いのに、目だけはちゃんと私を捉える。
「殿下のこと?」
「……」
「そっか。まあ、仕方ないね」
「仕方ないってなに」
「好きな人に好きって言われたら、眠れないのは普通じゃないの」
「……」
私は天井を見つめた。
言い返したいのに、言い返せない。たぶん正しいから。
「セリア」
「うん?」
「……殿下が、本気だと思う?」
「どういう意味で?」
「手紙に書いてきたのは、その場の勢いじゃないかとか……私への気遣いが、そういう形になっただけじゃないかとか……」
言いながら、自分でも苦しい。
否定したいわけじゃない。むしろ逆だ。肯定が怖い。
「マリアンナ」
セリアが小さくため息をついた。
「殿下があなたを見てきた三年間を思い返して、それでまだ『本気じゃないかも』って言える?」
「……三年間」
「毎月の手紙。学院に視察に来た時の行動。舞踏会の時のこと。誘拐事件の夜のこと。——全部、マリアンナ自身が経験してきたことでしょ」
「……でも」
「でも、なに?」
私は言葉を探して、息を吸って——やっと、小さく吐いた。
「……怖いの」
「何が?」
「受け取って、向き合って、もしうまくいかなかったら……それが怖い」
自分の声が、思ったより幼く聞こえて、私は少しだけ腹が立った。
でも、この気持ちは嘘じゃない。
「前世では——」
そう続けようとして、私はそこで自分の舌にブレーキをかけた。遅かった。
「前世?」
セリアが、私を見る。
暗い部屋なのに、視線の輪郭がはっきり分かる。
私は固まった。
「……いや、なんでもない。忘れて」
「マリアンナ」
セリアが静かに言った。静かなのに、逃げ道を塞ぐ声。
「前世って言った。聞き間違いじゃないよね?」
「……」
「私も、言わなきゃいけないことがある」
セリアは体を起こした。
闇の中で、その瞳だけが真剣に光っている。
「今、ちゃんと話そう。二人で」
「……セリア?」
その目の真剣さに、私も体を起こす。
そうして、夜中の二時から——私たちは長い話を始めた。
「まず、私から言う」
セリアが静かに切り出した。
暗い部屋の中で、声だけがやけにはっきり響く。
「私も、前世の記憶があるよ」
『マリアンナのことが好きだ』
——この言葉を受け取ってから、三日が経った。
三日間、私は平静を装い続けた。
授業では真面目にノートを取った。
食堂ではセリアといつも通りに会話した。
笑うところで笑って、頷くところで頷いて、『普通』を積み重ねた。
夜も、普通に就寝しようとした。
普通に就寝——は、できなかった。
布団に入って目を閉じる。
呼吸を整える。
……なのに、瞼の裏に文字が浮かぶ。
『マリアンナのことが好きだ』
たった一行。たったそれだけ。
なのに、何度でも浮かんでくる。
読んだはずなのに、また読む。読んだのに、また胸が鳴る。
「……マリアンナ、また起きてる?」
夜中の二時ごろ。
セリアが薄目を開けて、眠そうな声で言った。
「起きてない」
「天井を見ながら目がぱっちり開いてるのに?」
「……寝ようとしてる」
「考えごとしてる顔だよ」
セリアが寝返りを打って、こちらを向くと、暗いのに、目だけはちゃんと私を捉える。
「殿下のこと?」
「……」
「そっか。まあ、仕方ないね」
「仕方ないってなに」
「好きな人に好きって言われたら、眠れないのは普通じゃないの」
「……」
私は天井を見つめた。
言い返したいのに、言い返せない。たぶん正しいから。
「セリア」
「うん?」
「……殿下が、本気だと思う?」
「どういう意味で?」
「手紙に書いてきたのは、その場の勢いじゃないかとか……私への気遣いが、そういう形になっただけじゃないかとか……」
言いながら、自分でも苦しい。
否定したいわけじゃない。むしろ逆だ。肯定が怖い。
「マリアンナ」
セリアが小さくため息をついた。
「殿下があなたを見てきた三年間を思い返して、それでまだ『本気じゃないかも』って言える?」
「……三年間」
「毎月の手紙。学院に視察に来た時の行動。舞踏会の時のこと。誘拐事件の夜のこと。——全部、マリアンナ自身が経験してきたことでしょ」
「……でも」
「でも、なに?」
私は言葉を探して、息を吸って——やっと、小さく吐いた。
「……怖いの」
「何が?」
「受け取って、向き合って、もしうまくいかなかったら……それが怖い」
自分の声が、思ったより幼く聞こえて、私は少しだけ腹が立った。
でも、この気持ちは嘘じゃない。
「前世では——」
そう続けようとして、私はそこで自分の舌にブレーキをかけた。遅かった。
「前世?」
セリアが、私を見る。
暗い部屋なのに、視線の輪郭がはっきり分かる。
私は固まった。
「……いや、なんでもない。忘れて」
「マリアンナ」
セリアが静かに言った。静かなのに、逃げ道を塞ぐ声。
「前世って言った。聞き間違いじゃないよね?」
「……」
「私も、言わなきゃいけないことがある」
セリアは体を起こした。
闇の中で、その瞳だけが真剣に光っている。
「今、ちゃんと話そう。二人で」
「……セリア?」
その目の真剣さに、私も体を起こす。
そうして、夜中の二時から——私たちは長い話を始めた。
「まず、私から言う」
セリアが静かに切り出した。
暗い部屋の中で、声だけがやけにはっきり響く。
「私も、前世の記憶があるよ」



