図書館の事件から一週間後、ランベルトが話しかけてきた。
昼休み、廊下の窓際。
人の流れが少し途切れたところで、彼は私の前に立って、気まずそうに喉を鳴らした。
「マリアンナ嬢、あの時は大変だったね。背中はもう大丈夫?」
「はい、おかげさまで」
「……よかった」
その短い一言に、素直な安心が滲んでいる。
「ランベルト殿も気にかけてくださっていたんですか?」
「そりゃあ、同じ学年だし……あ、いや、セリア嬢も心配してたし」
若干口ごもりながら言うランベルト。
視線が一瞬だけ泳いで、でもすぐ戻ってくる。
正直すぎて分かりやすい。
(ああ、もうフラグ立ってる)
ゲームではランベルトは、セリアへの想いを自覚するのが比較的早い。
入学後の最初の一、二ヶ月で『気になる』状態になる。
騎士のくせに、惚れっぽすぎる。いや、騎士だから惚れっぽいのか?知らない。
(でも、そちらのルートには行かせない)
私は笑顔の形を崩さないまま、会話の舵を切った。
「ランベルト殿は騎士科でしたね。剣の腕はもうかなりのものだと伺いましたが」
「ああ、まあ……父の薫陶のおかげで、多少は」
「素晴らしい。王国の騎士団を担う存在として、大きな未来がありますね」
私が微笑むと、ランベルトは照れたように首の後ろを掻いた。
褒められ慣れていない反応。
真面目で、真っ直ぐで——だからこそ、ルートが怖い。
「まあ、夢はあるよ。いつか騎士団長になって、王国を守りたい」
「きっとなれます。あなたには、その素質がある」
「……マリアンナ嬢は、なんかその……話しやすいね」
「ありがとうございます」
「セリア嬢も、感じのいい人だけど……ちょっと、どう話しかけたらいいかわからなくて」
(やっぱりそっちに意識が向いてる……)
私は心の中でだけため息をついて、さらに話題をずらした。
『セリアにどう近づくか』の相談に乗ったら、私が私を殴りたい。
「ランベルト殿には、思い描く騎士像があるんですね。どんな騎士になりたいですか?」
「強いだけじゃなくて、守るべきものをちゃんと見極めて……王国全体を守れるような。個人を守るより、国を守ることが本懐だと思ってる」
「なるほど」
(その『見極める対象』を、セリア一人に囚われすぎないように。今から意識づけを……)
これは些細な会話に見えて、実は重要だ。
ゲームのランベルトルートで彼が最後に命を落とすのは、セリア個人を守るために自分を捨てたから。
『国全体ではなく、目の前の一人に命を賭けてしまう』——その危うさが、彼の最大の弱点でもあった。
今この段階から『国全体を守ること』への意識を強く持たせ続ければ、未来の分岐を少しだけずらせるかもしれない。
少なくとも、『捨て身が美徳』になってしまう癖を、早めに矯正できる。
「立派な志ですね。ランベルト殿ならきっと、多くの人を守れる。そのためにも、自分自身を守ることも大切ですよ」
「自分を守る?」
「国を守るためには、守り手が生き続けなければなりません。捨て身の覚悟は時に必要ですが、それが目的になってはいけない——そう思います」
ランベルトは、私の言葉にじっと耳を傾けてくれた。
目が真剣で、嘲笑も反発もない。真面目な人だ。だから救いたい。
「……なんか、マリアンナ嬢、年上みたいなこと言うな」
「よく言われます」
「でも……なるほどなって、思った。覚えておく」
(少しでも伝わってくれれば……)
ランベルトが自滅エンドを迎えないためにも、この会話の積み重ねが大事だ。
彼はいい人間だ。死なせたくない。
セリアのためだけでなく、ランベルト自身のためにも。
昼休み、廊下の窓際。
人の流れが少し途切れたところで、彼は私の前に立って、気まずそうに喉を鳴らした。
「マリアンナ嬢、あの時は大変だったね。背中はもう大丈夫?」
「はい、おかげさまで」
「……よかった」
その短い一言に、素直な安心が滲んでいる。
「ランベルト殿も気にかけてくださっていたんですか?」
「そりゃあ、同じ学年だし……あ、いや、セリア嬢も心配してたし」
若干口ごもりながら言うランベルト。
視線が一瞬だけ泳いで、でもすぐ戻ってくる。
正直すぎて分かりやすい。
(ああ、もうフラグ立ってる)
ゲームではランベルトは、セリアへの想いを自覚するのが比較的早い。
入学後の最初の一、二ヶ月で『気になる』状態になる。
騎士のくせに、惚れっぽすぎる。いや、騎士だから惚れっぽいのか?知らない。
(でも、そちらのルートには行かせない)
私は笑顔の形を崩さないまま、会話の舵を切った。
「ランベルト殿は騎士科でしたね。剣の腕はもうかなりのものだと伺いましたが」
「ああ、まあ……父の薫陶のおかげで、多少は」
「素晴らしい。王国の騎士団を担う存在として、大きな未来がありますね」
私が微笑むと、ランベルトは照れたように首の後ろを掻いた。
褒められ慣れていない反応。
真面目で、真っ直ぐで——だからこそ、ルートが怖い。
「まあ、夢はあるよ。いつか騎士団長になって、王国を守りたい」
「きっとなれます。あなたには、その素質がある」
「……マリアンナ嬢は、なんかその……話しやすいね」
「ありがとうございます」
「セリア嬢も、感じのいい人だけど……ちょっと、どう話しかけたらいいかわからなくて」
(やっぱりそっちに意識が向いてる……)
私は心の中でだけため息をついて、さらに話題をずらした。
『セリアにどう近づくか』の相談に乗ったら、私が私を殴りたい。
「ランベルト殿には、思い描く騎士像があるんですね。どんな騎士になりたいですか?」
「強いだけじゃなくて、守るべきものをちゃんと見極めて……王国全体を守れるような。個人を守るより、国を守ることが本懐だと思ってる」
「なるほど」
(その『見極める対象』を、セリア一人に囚われすぎないように。今から意識づけを……)
これは些細な会話に見えて、実は重要だ。
ゲームのランベルトルートで彼が最後に命を落とすのは、セリア個人を守るために自分を捨てたから。
『国全体ではなく、目の前の一人に命を賭けてしまう』——その危うさが、彼の最大の弱点でもあった。
今この段階から『国全体を守ること』への意識を強く持たせ続ければ、未来の分岐を少しだけずらせるかもしれない。
少なくとも、『捨て身が美徳』になってしまう癖を、早めに矯正できる。
「立派な志ですね。ランベルト殿ならきっと、多くの人を守れる。そのためにも、自分自身を守ることも大切ですよ」
「自分を守る?」
「国を守るためには、守り手が生き続けなければなりません。捨て身の覚悟は時に必要ですが、それが目的になってはいけない——そう思います」
ランベルトは、私の言葉にじっと耳を傾けてくれた。
目が真剣で、嘲笑も反発もない。真面目な人だ。だから救いたい。
「……なんか、マリアンナ嬢、年上みたいなこと言うな」
「よく言われます」
「でも……なるほどなって、思った。覚えておく」
(少しでも伝わってくれれば……)
ランベルトが自滅エンドを迎えないためにも、この会話の積み重ねが大事だ。
彼はいい人間だ。死なせたくない。
セリアのためだけでなく、ランベルト自身のためにも。



