放課後の教室で、僕は天を仰ぎたくなった。
担任に「悪いが視聴覚室のスクリーン、北校舎の備品庫に返しておいてくれ」と頼まれたからだ。
幅二メートルを超える、巻き取り式の古びたスクリーン。
一人で運ぶには重心が不安定すぎるし、何より重い。
内申点のために「いいこちゃん」を演じてきた代償は、時としてこうした物理的な苦行として降りかかる。
断るという選択肢は、僕の処世術には存在しなかった。
「瀬名。お前、暇だろう。少し筋肉を貸せ」
「玲央からの頼み!? いいよ、どこまででも持ってって!」
声をかければ、前の席で帰り支度をしていた大型犬は、尻尾が見えるほどの勢いで快諾した。
かくして、僕がスクリーンの端を、瀬名が本体の大部分を抱える形で、僕たちは人気のない北校舎へと足を踏み入れた。
軋む廊下。
西日に照らされた埃が、まるで意思を持つ胞子のように空気中を漂っている。
生徒の間では、正体不明の鳴き声が聞こえるだの、足に何かがまとわりつくだのといった低俗な怪談の温床となっている場所が北校舎だ。
瀬名が「ここ、なんか出そうだね」と呑気に笑った瞬間、僕は咳払いをして、釘を刺すように言い放った。
「いいか、瀬名。これはあくまで担任からの任務遂行ミッションであって、ついでに本日の『地学研究会』のフィールドワークとして部誌に記録予定。決して、校内で噂になっている低俗な怪談の真相究明などという、非論理的な目的ではない」
「あ、うん。え?」
「そうだ。北校舎の壁面に生じたクラックから、地盤沈下の兆候がないかを観察するしつつ、スクリーンを返却するだけの業務だ。変な考えおこすなよ」
言いながら、僕はスクリーンの重み以上に、背後に感じる「何かの気配」に奥歯を噛みしめた。
僕の小指にある黒曜石のリングが、冷ややかに熱を帯び始めている。
「わかってるって……でもさ、ここマジで暗くない?」
放課後の北校舎。
旧い木造の床がギイと鳴る。
僕は、懐中電灯を手に慎重に廊下を進んでいた。
最近、この廊下で「見えない何かに足をもつれさせて転倒する」生徒が続出しているのだ。
隣には、スクリーンを抱えたままの瀬名が、大型犬のように僕の肩に顎を乗せそうな距離で、べったりと張り付いている。
「……瀬名。離れろ。お前が重くて、僕まで転びそうだ」
「え〜。だって地味に怖いんだもん。……ほら、充電。充電しとかないと、いざって時に玲央を守れないでしょ? 俺の両手ふさがってるしー」
「……屁理屈を言うな。それより、足元に注意し——」
――べよ、べよべよぉ。
弾力のある不思議な鳴き声が、暗闇から響いた。
直後、僕の右足にもふもふっとした柔らかい何かが、猛烈な勢いでスリスリと擦り寄ってきた。
「な、なんだ!? 野良猫か……!?」
視線を落とすが、暗くてよく見えない。
ただ、その「何か」は、明らかに猫にしては質量がおかしく、まとわりつかれるたびに僕の足からごっそりと体温を奪っていく感覚がする。
「お、おい、瀬名! 足元に何か……っ、わぁっ!?」
「うわっ、俺の方にも来た! なにこれ、あったけぇ……べよべよ言ってる! ねこ? いぬ? うさぎ?」
反射的に足を引こうとしたが、その毛の生えた白いおもちのような物体は、驚異的な粘着力で僕の足首に絡みついてくる。
右足が固定され、重心を失った。
「あ——」
身体が前にのめり、硬い床に顔面を打ちつける……そう確信した瞬間。
ガシッ、と。
強引なまでの力で、僕の腰が引き寄せられた。
瀬名のバキバキに硬い腕が、僕の身体を宙で受け止める。
スクリーンがどごん、と床に転がり落ちる。
背後から抱きしめられるような体勢。
僕の背中に、瀬名の胸板と、速い鼓動が直接伝わってくる。
「……あぶねー。……大丈夫か、玲央」
「……せ、瀬名……。……離せ。……というか、足元を見ろ!」
僕が懐中電灯を向けると、そこには。
白くて丸い、本当におもちを丸めたような形の猫だか犬だかの生物が、三匹ほど僕たちの足元ですりすりと体を震わせている。
つぶらな瞳を輝かせ、足の間を「べよべよ」と鳴きながら往復している、なんだこれ。
なんだこれ!?
「猫、なのか? 骨格という概念が欠如しているようだが……というか『べよべよ』鳴く生物なんて、江戸時代中期ごろまでの犬の鳴き声が確か『べうべう』だったはずだが…」
「ねえねえ玲央。これさあ犬じゃないでしょ。猫でもないし」
瀬名は僕を抱きしめたまま、なぜか、楽しそうに笑った。
その時、僕の小指の「黒曜石のリング」が、警告するようにポッと赤く光る。
「なんだろうなあ『すねこすり』とかかなあ? じいちゃんの本に載ってた気がする。……へへっ、こいつら、俺たちの『充電』の熱に釣られて集まってきちゃったとか」
「何を頭悪い事を言っているんだ! 『すねこすり』って妖怪だろ? そんなものが現実に存在するわけがっ、うわああああ」
まめたが、ぐいーんと伸びあがって僕の腕にかじりつく。
「玲央」
瀬名の声が、一瞬で低いトーンに変わった。
おもち生物たちの背後の闇が、ドロリと蠢き始める。
僕は、恐怖と、そして背中から伝わる瀬名の圧倒的な熱のせいで、呼吸の仕方を忘れそうになっていた。
「玲央。しっかり俺の腕に捕まってろよ。俺の充電が切れないように、さ」
瀬名が僕の肩に顔を埋め、深く息を吸い込む。
それは紛れもない急速充電の合図。
僕は「勝手にしろ、バカ」と毒づきながら、瀬名の腕を、強く、強く握り返していた。
直後、廊下の突き当たりにある闇が、意志を持ったかのように膨れ上がった。
それは、巨大な獣のようでもあり、あるいは何百人もの影を煮詰めたようでもあった。
(気圧の変化による幻覚か? いや、壁の木材が、あの『黒いもの』に触れたそばからミシミシと削り取られている!?)
僕の脳内の論理回路が、初めてエラーを吐き出した。
科学では説明がつかない。
ということは、逃げなければならない。
なのに、足元ではおもち生物たちが「べよべよ」と必死に僕の脚に縋り付き、逃げ道を塞いでいる。
僕の腕にすがりついていたまめたが、毛を逆立てながらするすると降りていき、僕の足元に陣取った。
だが、迫り来る黒い塊の圧力に「きゅぅぅ……!」と悲鳴を上げる。
「これで、どうだ! 悪霊退散!」
瀬名が叫び、バッグの中から何かを取り出して、目の前の空間に豆を撒くように投げつけた。
ばらばらばらという音が反響し、闇の中で懐中電灯の光を受けて、水晶のクラスターが煌めく。
「くそっ、離せ瀬名! 僕をおいて逃げろ! お前は、鉄欠乏性貧血か何かわかんないけど、よろよろだろ!」
「やだね。俺の大事なバッテリーはお前しかいないんだから」
瀬名の腕に、一層力がこもる。
逃がさない。
骨が軋むほどの強い抱擁。
僕の背中を通じて胸の奥まで響き渡る心臓の音。
――バチッ!!
「……あ、……つい……!?」
僕の小指に嵌められた黒曜石のリングが、突如として溶岩のような熱を帯びた。
反射的に瀬名の手に自分の手を重ね、指を絡ませた――その瞬間。
――――ペカァァァァァッ!!!!!!
「「うわああああああああっ!!!」」
視界が真っ白に塗りつぶされた。
それは雷光よりも鋭く、太陽よりも清浄な、圧倒的な白の閃光。
瀬名から流れ込んできた膨大な熱量が、僕を媒介にして、リングの石を通じて爆発したような感覚。
キィィィィィィン!!
鼓膜を劈くような高周波の音とともに、迫っていた黒い影が霧散していく。
それだけではない。
足元で僕たちの脚に縋り付いていたおもち生物たちも、光に包まれてポヨヨーン! と弾け飛んだ。
「……はぁ、……はぁ、……っ、……な、なんだ、今の……」
数秒後。
目が眩み、視界にチカチカと残像が走る中、僕は瀬名の腕の中で喘いでいた。
北校舎の廊下には、いつもの埃っぽい静寂が戻っている。
黒い影も「べよべよ」という悲哀に満ちた鳴き声も、すべてが嘘のように消え去っていた。
「すご……消えた……? 浄仏? 成敗、したのかな……?」
瀬名が呆然と呟き、僕を抱きしめていた力を緩めた。
「……瀬名、お前今の、お前の仕業か?」
「えっ、俺!? 玲央が指輪でビーム出したんだろ!?」
「そんなわけがあるか! ……っ、待て、……あそこに……」
懐中電灯で床を照らす。
そこには、おもち生物がいたはずの場所に、一玉の綿飴のような白いふわふわした塊が、一匹だけポツンと残されていた。
――べよ……?
それは、もう僕たちの足を引っ張ることはなかった。
ただ、不思議そうに僕と瀬名を見上げ、ぽてぽてと歩み寄ってくると、瀬名のスニーカーの上で丸まって寝息を立て始めたのだ。
「『ただのもふもふ』になった……え、可愛すぎるんだけど」
「認めない。僕は、今の現象を科学的に過放電、あるいは静電気の集中的発現として……っ」
「あはは!」
笑う瀬名の顔には、少しだけ赤みが戻っていた。
そして僕の小指のリングは、役目を終えたかのように、今は静かに冷たくなっている。
僕は震える手で、瀬名の制服の裾を掴み直した。
(調子が、狂う)
担任に「悪いが視聴覚室のスクリーン、北校舎の備品庫に返しておいてくれ」と頼まれたからだ。
幅二メートルを超える、巻き取り式の古びたスクリーン。
一人で運ぶには重心が不安定すぎるし、何より重い。
内申点のために「いいこちゃん」を演じてきた代償は、時としてこうした物理的な苦行として降りかかる。
断るという選択肢は、僕の処世術には存在しなかった。
「瀬名。お前、暇だろう。少し筋肉を貸せ」
「玲央からの頼み!? いいよ、どこまででも持ってって!」
声をかければ、前の席で帰り支度をしていた大型犬は、尻尾が見えるほどの勢いで快諾した。
かくして、僕がスクリーンの端を、瀬名が本体の大部分を抱える形で、僕たちは人気のない北校舎へと足を踏み入れた。
軋む廊下。
西日に照らされた埃が、まるで意思を持つ胞子のように空気中を漂っている。
生徒の間では、正体不明の鳴き声が聞こえるだの、足に何かがまとわりつくだのといった低俗な怪談の温床となっている場所が北校舎だ。
瀬名が「ここ、なんか出そうだね」と呑気に笑った瞬間、僕は咳払いをして、釘を刺すように言い放った。
「いいか、瀬名。これはあくまで担任からの任務遂行ミッションであって、ついでに本日の『地学研究会』のフィールドワークとして部誌に記録予定。決して、校内で噂になっている低俗な怪談の真相究明などという、非論理的な目的ではない」
「あ、うん。え?」
「そうだ。北校舎の壁面に生じたクラックから、地盤沈下の兆候がないかを観察するしつつ、スクリーンを返却するだけの業務だ。変な考えおこすなよ」
言いながら、僕はスクリーンの重み以上に、背後に感じる「何かの気配」に奥歯を噛みしめた。
僕の小指にある黒曜石のリングが、冷ややかに熱を帯び始めている。
「わかってるって……でもさ、ここマジで暗くない?」
放課後の北校舎。
旧い木造の床がギイと鳴る。
僕は、懐中電灯を手に慎重に廊下を進んでいた。
最近、この廊下で「見えない何かに足をもつれさせて転倒する」生徒が続出しているのだ。
隣には、スクリーンを抱えたままの瀬名が、大型犬のように僕の肩に顎を乗せそうな距離で、べったりと張り付いている。
「……瀬名。離れろ。お前が重くて、僕まで転びそうだ」
「え〜。だって地味に怖いんだもん。……ほら、充電。充電しとかないと、いざって時に玲央を守れないでしょ? 俺の両手ふさがってるしー」
「……屁理屈を言うな。それより、足元に注意し——」
――べよ、べよべよぉ。
弾力のある不思議な鳴き声が、暗闇から響いた。
直後、僕の右足にもふもふっとした柔らかい何かが、猛烈な勢いでスリスリと擦り寄ってきた。
「な、なんだ!? 野良猫か……!?」
視線を落とすが、暗くてよく見えない。
ただ、その「何か」は、明らかに猫にしては質量がおかしく、まとわりつかれるたびに僕の足からごっそりと体温を奪っていく感覚がする。
「お、おい、瀬名! 足元に何か……っ、わぁっ!?」
「うわっ、俺の方にも来た! なにこれ、あったけぇ……べよべよ言ってる! ねこ? いぬ? うさぎ?」
反射的に足を引こうとしたが、その毛の生えた白いおもちのような物体は、驚異的な粘着力で僕の足首に絡みついてくる。
右足が固定され、重心を失った。
「あ——」
身体が前にのめり、硬い床に顔面を打ちつける……そう確信した瞬間。
ガシッ、と。
強引なまでの力で、僕の腰が引き寄せられた。
瀬名のバキバキに硬い腕が、僕の身体を宙で受け止める。
スクリーンがどごん、と床に転がり落ちる。
背後から抱きしめられるような体勢。
僕の背中に、瀬名の胸板と、速い鼓動が直接伝わってくる。
「……あぶねー。……大丈夫か、玲央」
「……せ、瀬名……。……離せ。……というか、足元を見ろ!」
僕が懐中電灯を向けると、そこには。
白くて丸い、本当におもちを丸めたような形の猫だか犬だかの生物が、三匹ほど僕たちの足元ですりすりと体を震わせている。
つぶらな瞳を輝かせ、足の間を「べよべよ」と鳴きながら往復している、なんだこれ。
なんだこれ!?
「猫、なのか? 骨格という概念が欠如しているようだが……というか『べよべよ』鳴く生物なんて、江戸時代中期ごろまでの犬の鳴き声が確か『べうべう』だったはずだが…」
「ねえねえ玲央。これさあ犬じゃないでしょ。猫でもないし」
瀬名は僕を抱きしめたまま、なぜか、楽しそうに笑った。
その時、僕の小指の「黒曜石のリング」が、警告するようにポッと赤く光る。
「なんだろうなあ『すねこすり』とかかなあ? じいちゃんの本に載ってた気がする。……へへっ、こいつら、俺たちの『充電』の熱に釣られて集まってきちゃったとか」
「何を頭悪い事を言っているんだ! 『すねこすり』って妖怪だろ? そんなものが現実に存在するわけがっ、うわああああ」
まめたが、ぐいーんと伸びあがって僕の腕にかじりつく。
「玲央」
瀬名の声が、一瞬で低いトーンに変わった。
おもち生物たちの背後の闇が、ドロリと蠢き始める。
僕は、恐怖と、そして背中から伝わる瀬名の圧倒的な熱のせいで、呼吸の仕方を忘れそうになっていた。
「玲央。しっかり俺の腕に捕まってろよ。俺の充電が切れないように、さ」
瀬名が僕の肩に顔を埋め、深く息を吸い込む。
それは紛れもない急速充電の合図。
僕は「勝手にしろ、バカ」と毒づきながら、瀬名の腕を、強く、強く握り返していた。
直後、廊下の突き当たりにある闇が、意志を持ったかのように膨れ上がった。
それは、巨大な獣のようでもあり、あるいは何百人もの影を煮詰めたようでもあった。
(気圧の変化による幻覚か? いや、壁の木材が、あの『黒いもの』に触れたそばからミシミシと削り取られている!?)
僕の脳内の論理回路が、初めてエラーを吐き出した。
科学では説明がつかない。
ということは、逃げなければならない。
なのに、足元ではおもち生物たちが「べよべよ」と必死に僕の脚に縋り付き、逃げ道を塞いでいる。
僕の腕にすがりついていたまめたが、毛を逆立てながらするすると降りていき、僕の足元に陣取った。
だが、迫り来る黒い塊の圧力に「きゅぅぅ……!」と悲鳴を上げる。
「これで、どうだ! 悪霊退散!」
瀬名が叫び、バッグの中から何かを取り出して、目の前の空間に豆を撒くように投げつけた。
ばらばらばらという音が反響し、闇の中で懐中電灯の光を受けて、水晶のクラスターが煌めく。
「くそっ、離せ瀬名! 僕をおいて逃げろ! お前は、鉄欠乏性貧血か何かわかんないけど、よろよろだろ!」
「やだね。俺の大事なバッテリーはお前しかいないんだから」
瀬名の腕に、一層力がこもる。
逃がさない。
骨が軋むほどの強い抱擁。
僕の背中を通じて胸の奥まで響き渡る心臓の音。
――バチッ!!
「……あ、……つい……!?」
僕の小指に嵌められた黒曜石のリングが、突如として溶岩のような熱を帯びた。
反射的に瀬名の手に自分の手を重ね、指を絡ませた――その瞬間。
――――ペカァァァァァッ!!!!!!
「「うわああああああああっ!!!」」
視界が真っ白に塗りつぶされた。
それは雷光よりも鋭く、太陽よりも清浄な、圧倒的な白の閃光。
瀬名から流れ込んできた膨大な熱量が、僕を媒介にして、リングの石を通じて爆発したような感覚。
キィィィィィィン!!
鼓膜を劈くような高周波の音とともに、迫っていた黒い影が霧散していく。
それだけではない。
足元で僕たちの脚に縋り付いていたおもち生物たちも、光に包まれてポヨヨーン! と弾け飛んだ。
「……はぁ、……はぁ、……っ、……な、なんだ、今の……」
数秒後。
目が眩み、視界にチカチカと残像が走る中、僕は瀬名の腕の中で喘いでいた。
北校舎の廊下には、いつもの埃っぽい静寂が戻っている。
黒い影も「べよべよ」という悲哀に満ちた鳴き声も、すべてが嘘のように消え去っていた。
「すご……消えた……? 浄仏? 成敗、したのかな……?」
瀬名が呆然と呟き、僕を抱きしめていた力を緩めた。
「……瀬名、お前今の、お前の仕業か?」
「えっ、俺!? 玲央が指輪でビーム出したんだろ!?」
「そんなわけがあるか! ……っ、待て、……あそこに……」
懐中電灯で床を照らす。
そこには、おもち生物がいたはずの場所に、一玉の綿飴のような白いふわふわした塊が、一匹だけポツンと残されていた。
――べよ……?
それは、もう僕たちの足を引っ張ることはなかった。
ただ、不思議そうに僕と瀬名を見上げ、ぽてぽてと歩み寄ってくると、瀬名のスニーカーの上で丸まって寝息を立て始めたのだ。
「『ただのもふもふ』になった……え、可愛すぎるんだけど」
「認めない。僕は、今の現象を科学的に過放電、あるいは静電気の集中的発現として……っ」
「あはは!」
笑う瀬名の顔には、少しだけ赤みが戻っていた。
そして僕の小指のリングは、役目を終えたかのように、今は静かに冷たくなっている。
僕は震える手で、瀬名の制服の裾を掴み直した。
(調子が、狂う)



