左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 ムチムチ団長への挨拶を終えた俺たちは、そのまま寮へと行き一日が終わった。

 いやぁ~フカフカのベッドでぐっすり眠れたよ。辺境と言えども王国最大組織の拠点だからな。
 こういった施設の充実は本当にありがたい。これが冒険者業だと上位クラスにならないと、なかなかこうはいかない。
 安定した生活ってのはやはり重要だ。こう、心にしみるものがある。

 さて、ぐっすり眠った翌朝。
 俺は赴任先である三等騎士食堂課へと向かう。

 ちなみに他の3人はというと、ルリアは魔法支援課、スリーナとゴンスは揃って騎士課へと配属されたらしい。
 いや、まあ全員騎士だろって話なんだが、でかい組織には多数の部署がつきものだ。それに基礎訓練なんかは合同でやったりする。


 さてさて、新しい部署への初出勤だ。
 寮から歩いて5分ほどで、本庁舎横に建つ平屋の建物へと着いた。

 「……ここが食堂か」

 外観は質素。派手さはないが、清潔で悪くない。
 中に入るとちょうど朝食の時間帯とあって、そこそこの人数がテーブルを占めていた。

 さーて、俺の上司殿はどこに。

 ムチムチ団長からは食堂に行けとだけ言われていたが、事務室らしき小部屋には誰もいない。
 なら厨房を覗くかと、足を向ける。

 厨房では長い口ひげを胸元まで垂らしたじいさまと、ぶかぶかのコック帽を深くかぶったヤツが一人。
 二人とも黙々と手を動かして食材を切ったり煮たり、とにかく集中している。
 こりゃ挨拶どころじゃないな……と踵を返しかけたその時だ。

 ぶかぶかコック帽が、ガバッとこちらを振り向いた。

 そしてズンズンと迫ってくる。

 え? なに? こわっ!!
 ていうか絶対その帽子、サイズ合ってねぇだろ!

 「タケオ先輩~~! 待ってましたよ~~!」

 ん?

 この声……聞き覚えが……?

 ぶかぶかコック帽が外されると、中から若草色の髪がふわりと揺れた。
 小柄な体で元気に両手を振り、ときおりメガネをクイッと上げる仕草―――

 「おお、ミーシャじゃないか!」

 そう、彼女は前部署である本部庶務課で一緒だった後輩だ。
 数か月前に異動したとは聞いていたが、剣姫の呼び出しで俺が振り回されてる間にいなくなっていた。

 「なるほど、ミーシャの配転先はここだったのか」

 「えへへ~~また先輩と一緒の職場だ♪」

 緑色の瞳を揺らしてその場でぴょんと弾む美少女。たしか歳は17だったか。
 いやぁ、知った顔がいるってのはちょっと安心するな。

 「なあ、ミーシャ……」
 「先輩~まずは朝食を食べててくださ~い♪」

 課長の居場所を聞き出そうとしたのだが、可愛い後輩が朝食の載ったトレイを手渡してきた。
 うむ、たしかに焦ってもしゃーないか。配属先の食堂を知るためにも良いだろう。
 俺はナイフとフォークを手に、トレイに視線を向ける。

 トレイに載っているのは、パンにスープとベーコンを焼いたもの。

 ベーコンは、うむ。まあ……まあまあか。
 パンは……かたい……いや、まあこの世界の標準ではあるので、この食堂がどうというわけじゃない。

 そしてスープ……

 むぅうううう……パンがすすまん。

 これはミーシャやじいさまが悪い訳じゃない。むしろ良く頑張っていると言えよう。

 この異世界の食文化レベルは低い。
 うまいものも稀にあるが、食えたもんじゃないものの方が圧倒的に多い。

 そしてこの朝食も―――

 まあ硬いパンはやむを得ないとして。
 このスープなぁ……

 テーブルについているまわりの連中も、特に喜ぶわけでもなく淡々と口に運んでいる。

 ……よし、決めた。

 せっかく食堂課配属となったたんだ、ちょっとぐらいは良くしてこうじゃないか。改革なんてだいそれたことは言う気はない。
 ちょっとした「うまい」があってもいいと思うんだ。

 ふたたび厨房へと戻った俺は。

 「……現代フード召喚」

 俺はポンっと手元に現れた箱をあけた。
 なかには小袋がいくつも入っている。

 「先輩、なんですかそれ?」
 「これはな、魔法の粉だ」

 俺はスープの器に粉を入れて、お湯を注いだ。
 ふんわりと立ち込めるクリーミーな香り。

 「ええ! お湯入れたらスープ出来てる!?」
 「むふふ、凄いだろう。さあ飲んでみてくれ」

 俺がだした黄色いスープをひと口含んだ瞬間、ミーシャの頬がゆるんでその小柄な身体がぴょんと跳ねた。

 「せ、先輩……なにこの粉!? すごいんですけど!!」

 そう、俺の召喚した現代フードは粉末インスタントスープだ。
 ミーシャが飲んでいるのはポピュラーなコーンスープ。この世界にもあるかもしれんが、現代の味の方がはるかにうまい。
 無口なじいさまも調理の手を止めて、その長い髭をピクピクさせてスープをがぶ飲みしはじめた。

 「だがこんなもんじゃないぜ」

 俺は次々と新たな箱を召喚した。

 「パンプキン味だ~」
 「やん、これもおいしい♪」

 「そらそら~コンソメ味もあるぞ~~」
 「だめ~~もうこれ以上は! メガネ曇りっぱなしぃい~~♡」

 「フリーズドライもあるぞ~~」
 「なにこれ、具材もお湯かけたらでてきた~~!?」

 クハハ~どうだ! 現代フードの底力を存分に味わうがいい。

 こうして、あらたなスープを加えた朝食がふるまわれる三等騎士食堂。

 「お、おい。今日の朝飯……」
 「ああ……これは……」

 テーブルについてたやつらの目つきが変わる。
 口に入れた瞬間、食べる速度がみるみる上がっていった。

 無表情だった目が、ギンギンに輝きを帯びていく。

 よしよし、これでみんなにも朝食という楽しみができたな。
 朝イチで気分が良くなるってのは大事だ。1日の始まりなんだから。
 全ての食事を召喚するのは流石に魔力が足らんけど、ちょっとしたことぐらいならできるんだぜ。

 あと、俺の魔法は隠さず使うことにした。
 本部だとうるさいやつらが寄って来るが、ここは驚きはすれど、むしろありがたがるやつが多い。純粋に美味いものを食いたいってだけだ。そんなんなら俺も警戒せずに力を使ってもいいかと。
 まあ見せびらかすことはせんけど、隠すのもメンドクサクなってきたってのが本音だがな。
 隠し事って疲れるのよね。

 おっと、そうだった。肝心な事を忘れてた。

 「ところでミーシャ、課長はどこにいるんだ? 食堂課の事務室らしき部屋にもいなくてな」
 「え? ここにいますよ?」

 マジか……

 まさかこの長髭のじいさまが!? 

 「違いますよ?」

 え? じゃ、じゃあ―――

 「み、ミーシャ。お前が課長だったとは……」

 ここにいるって、そういうことだったのか。
 これは予測不能だったな。まさかの展開だ。

 「なに言ってんですか? タケオ先輩が課長じゃないですか」


 ―――はい?