演習場に満ちる熱気は、もはや夜の冷気などどこかに追いやっていた。
ビールのジョッキがぶつかり合う音、笑い声、そして皿の上で繰り広げられる食の格闘の音。俺の体内の魔力は依然としてギンギンであり、居酒屋タケオはフル回転状態である。
「さて……第一弾のメインがいきわたったところで、第二弾を投入するとしますか」
俺はニヤリと笑い、体内の魔力を凝縮した。
「―――現代フード召喚!!」
演習場の調理台が眩い光に包まれる。
「よし、ミーシャ、ルリアにじいさん、追加メニューを各テーブルにだすぞぉ~!」
かくして居酒屋メニュー第二弾が各テーブルに配られる。
すでに多数のお皿があるが、無理やりギュギュウにのせていく。これぞ大衆居酒屋の醍醐味だ。
ペースなんて関係なく置かれていく料理たち。まさに多種多様なメニューの爆撃だ。
「ちょ、何これ!? 真っ赤なんだけど! 見た目マジヤバくない!?」
「これは……筋肉がピクピクする匂いだぜ」
まず、最初に歓声……いや、驚愕の叫びを上げたのはスリーナとゴンスだった。
2人が指さすのは、深紅に染まった白菜や大根が並ぶキムチ盛り合わせである。
「それはキムチだ。食べてみ、けっこうクセになるぞ」
「タケオっち……これ、食い物か? どっかの火竜の血に漬け込んだんじゃねぇのか?」
「いいから食ってみろって。筋肉にも刺激が必要だろ?」
俺の言葉にゴンスは意を決してキムチを口に放り込んだ。その数秒後……
「……っ!? ……辛ぇ! 鼻から火が出る!! 」
ゴンスがあわててジョッキを煽り、凄まじい勢いで飲み干す。それを見ていたスリーナが面白そうに白菜キムチをパクリ。
「あ、マジだ! 最初ピリっとくるけど、このコク? みたいなのが超ウケる! タケ、これ味も刺激も最高じゃん!」
スリーナが「ヤバい、マジ止まんないんだけど」と笑いながら箸を進める。辛さと旨さ、そして刺激。現代の刺激物が異世界人の理性を少しずつ、だが確実に溶かしていた。
にしてもスリーナは順応が早い、それに辛い物はけっこういける口だな。
他のテーブルを見渡しても、キムチに関しては好き嫌いが分かれるようだ。
だがそれでいい。
だからこそ、テーブルを料理で埋め尽くしたのだから。
「はいはいお二人さん、追加のお料理です~~♪ これ先輩特製のシーザーサラダですよ!」
そこに巨大なサラダボウルを大量に抱えたミーシャが割り込んできた。
「げ、また野菜かよ……おれっちは濃いめの肉を……」
不満げなゴンスだったが、皿に盛られたサラダを見て目を輝かせた。
たっぷりのシーザードレッシング、カリカリのクルトン、そしてこれでもかと振りかけられた粉チーズ。
「な、なんだこれ! なんか濃い! うまい!」
「へぇ~~濃いけどサッパリもしてるじゃん。これもいいわ」
スリーナやゴンスの食べっぷりを見て同卓の騎士たちも、シーザーサラダにビールを楽しみ始める。
「先輩~~このサラダ、ドレッシングの召喚量ミスってません? ってぐらい濃厚ですね」
「居酒屋のサラダはこれぐらいでいいんだよ、ミーシャ」
そう、居酒屋のシーザーサラダはつまみみたいなもんだ。
酒が進むサラダ。酒が無くてもうまいサラダ。こいつも定番である。
俺はミーシャが持っていたサラダたちを半分引き受け、他のテーブルへと持っていく。
「まあ……美しいですわ。このオレンジ色の鮮やかな身は魚かしら?」
演習場の中央を通りかかった際に、綺麗で上品な声が俺の耳に入ってきた。
王族関係者のテーブルだ。
「サーモンのカルパッチョですよ、ステア王女殿下」
大皿に美しく並べられたオレンジ色のサーモンに、緑のハーブ、そして透明なオリーブオイルが魔法の灯火を反射してキラキラと輝いている。
「あら、焼いていませんのね……はじめてですわ」
「ええ、生食で大丈夫ですのでご安心ください」
この異世界において、生食はほとんどない。
まあそれは前世においても、日本の刺身文化などを除き同じようなもんではあるが。
よって、魚は焼くというのがこの異世界の常識なのである。
「レモンとオリーブオイルで爽やかに仕上げてありますので、くさみもありませんよ」
俺の言葉を聞き、ステア王女は少しばかり緊張の面持ちでカルパッチョを口に運ぶ。
新しいグルメはなんでもグイグイいく彼女だが、さすがに今回ばかりは慎重になっているのだろう。
そこへ、メイドのリリィさんがステア王女よりも先にカプッといった。
「あ、ちょっとリリィ!」
まあ王女専属侍女としては、生魚大丈夫なんか?てのはあるんだろう。
だが、毒見なんてしてもたぶん……
「ふはぁ……こ、これは……」
リリィさんの口元が緩んだ。
まあそりゃそうだ、この異世界よりも前世現代フードの方が明らかに進んでいるのだから。
そして、その様子をみて取った王女もすぐさまパクリといく。
「……あぁ、お、美味しいですわ。なんて上品なんでしょう、それでいて、この脂の甘みが口の中でとろけますわ」
頬を染めながらうっとりとカルパッチョに舌鼓をうつ王女殿下。
うむうむ、王族にも関わらず未知のグルメに挑戦する姿勢は嫌いじゃない。
「む、ではわしもひと口……」
「どれどれ……」
周囲の重鎮たちもサーモンのカルパッチョに手を伸ばしはじめた。
「おお、これはまろやかだがさっぱりとしておる!」
「ふむ、ビールやワインに合うのう~~」
よしよし、カルパッチョの素晴らしが伝わったようだな。
俺もカルパッチョをつまんで「うん、やっぱうまい」とひとり頷いていいると、新たな料理が運ばれてくる。
「まあ、このにおい……お魚ですわね!」
「そうですね姫様。今度のは焼いてあるようです」
ステア王女とリリーさんの前に置かれた大皿。
脂の焼けたにおいと醤油が焦げる香ばしい香りをプンプンさせて現れたのは……
「王女殿下、これはホッケ焼きですね。」
各テーブルに置かれていく巨大なホッケの開き。湯気を立てるその身に、騎士たちが一斉に箸を突き立てる。
「まあ、美味しそうなにおいですわ」
王女殿下が箸を身の中心に入れると、驚くほどふっくらとした肉厚な白身が抵抗なくほぐれる。
白い身を持ち上げた瞬間、脂が滴り落ちてホッケの芳醇な旨味が立ち上った。
彼女が一口頬張ると、皮のカリカリッとした香ばしさの後に、肉厚な白身がほっくりと崩れ濃厚な脂の甘みと旨味が口いっぱいに広がる。
「ふあぁあ~~これはまた先ほどのカルパッチョとは違う美味しさが……」
「はい、姫様。なんだか安心する味ですね」
ステア王女とリリィさんが夢中でホッケをつつきだした。
わかる。一度食べ出すと、つつきまくってしまうんだよな。
「……うおおお! 皮がパリッパリだ!」
「身が厚い! 脂が……脂ののりが良いぞ!」
居酒屋タケオ(演習場)のあちこちからうまうまの声が上がり始めた。
「ステア王女、この大根おろしに醤油をかけて食べるとより美味しいですよ」
大根おろしに醤油を少し垂らして食べれば、さっぱりとした酸味と濃厚な脂が交わり、酒でも白ご飯でもなんでも進ませる至高の味わいとなる。
もうステア王女からは、言葉はもれずに至福の笑顔のみが漏れていた。
よしよし、居酒屋メニュー大成功のようだな。
まだまだいくぞ……
「―――現代フード召喚!」
「―――現代フード召喚!!」
「―――現代フード召喚!!!」
俺の手は止まらない。テーブルの上が少しでも空けば、そこにはすぐさま新たな料理が補充される。
「先輩~~! 焼き鳥追加100本、唐揚げとポテトフライはもう山盛りで全部のテーブルに置いてきました~~」
ミーシャが、もはや走る配膳マシーンと化して報告に来る。額には汗が光っているが、その目は不思議と楽しそうだ。
「よし、どんどんいくぞ! 今日は騎士たちの胃袋限界まで付き合ってやる!」
鉄板の上で弾ける餃子の音。おでんの鍋から立ち昇る心を落ち着かせる湯気。だし巻き卵の優しい黄色。キムチの鮮烈な赤。ホッケの香ばしい煙。そして、揚げたての唐揚げの香りと、焼き鳥のタレの匂い。
それらすべてが混ざり合い、この異世界には存在しなかった現代居酒屋という名の幸福な空間が、一つの巨大な聖域を作り上げていた。
これだ。
和食、洋食、中華などなど……旨いものなら節操なく取り込み、酒やご飯に合う形に昇華させる。これが正しい食べ方だなんて説教臭いルールはない。ただ隣にいる奴と笑いながら旨いものを食い、酒を流し込む。これこそが大衆居酒屋という名の「聖域」の力なんだ。
「ふぅ……今日は楽しいわ」
俺はひとり呟いた。
さてと……
流石にこれだけ食えば、会場全体が心地よい満腹に足を踏み入れ始めているのも確かだ。
そろそろ締めの時間だな……
俺は調理台に立ち、再び魔力を練り始めた。
ビールのジョッキがぶつかり合う音、笑い声、そして皿の上で繰り広げられる食の格闘の音。俺の体内の魔力は依然としてギンギンであり、居酒屋タケオはフル回転状態である。
「さて……第一弾のメインがいきわたったところで、第二弾を投入するとしますか」
俺はニヤリと笑い、体内の魔力を凝縮した。
「―――現代フード召喚!!」
演習場の調理台が眩い光に包まれる。
「よし、ミーシャ、ルリアにじいさん、追加メニューを各テーブルにだすぞぉ~!」
かくして居酒屋メニュー第二弾が各テーブルに配られる。
すでに多数のお皿があるが、無理やりギュギュウにのせていく。これぞ大衆居酒屋の醍醐味だ。
ペースなんて関係なく置かれていく料理たち。まさに多種多様なメニューの爆撃だ。
「ちょ、何これ!? 真っ赤なんだけど! 見た目マジヤバくない!?」
「これは……筋肉がピクピクする匂いだぜ」
まず、最初に歓声……いや、驚愕の叫びを上げたのはスリーナとゴンスだった。
2人が指さすのは、深紅に染まった白菜や大根が並ぶキムチ盛り合わせである。
「それはキムチだ。食べてみ、けっこうクセになるぞ」
「タケオっち……これ、食い物か? どっかの火竜の血に漬け込んだんじゃねぇのか?」
「いいから食ってみろって。筋肉にも刺激が必要だろ?」
俺の言葉にゴンスは意を決してキムチを口に放り込んだ。その数秒後……
「……っ!? ……辛ぇ! 鼻から火が出る!! 」
ゴンスがあわててジョッキを煽り、凄まじい勢いで飲み干す。それを見ていたスリーナが面白そうに白菜キムチをパクリ。
「あ、マジだ! 最初ピリっとくるけど、このコク? みたいなのが超ウケる! タケ、これ味も刺激も最高じゃん!」
スリーナが「ヤバい、マジ止まんないんだけど」と笑いながら箸を進める。辛さと旨さ、そして刺激。現代の刺激物が異世界人の理性を少しずつ、だが確実に溶かしていた。
にしてもスリーナは順応が早い、それに辛い物はけっこういける口だな。
他のテーブルを見渡しても、キムチに関しては好き嫌いが分かれるようだ。
だがそれでいい。
だからこそ、テーブルを料理で埋め尽くしたのだから。
「はいはいお二人さん、追加のお料理です~~♪ これ先輩特製のシーザーサラダですよ!」
そこに巨大なサラダボウルを大量に抱えたミーシャが割り込んできた。
「げ、また野菜かよ……おれっちは濃いめの肉を……」
不満げなゴンスだったが、皿に盛られたサラダを見て目を輝かせた。
たっぷりのシーザードレッシング、カリカリのクルトン、そしてこれでもかと振りかけられた粉チーズ。
「な、なんだこれ! なんか濃い! うまい!」
「へぇ~~濃いけどサッパリもしてるじゃん。これもいいわ」
スリーナやゴンスの食べっぷりを見て同卓の騎士たちも、シーザーサラダにビールを楽しみ始める。
「先輩~~このサラダ、ドレッシングの召喚量ミスってません? ってぐらい濃厚ですね」
「居酒屋のサラダはこれぐらいでいいんだよ、ミーシャ」
そう、居酒屋のシーザーサラダはつまみみたいなもんだ。
酒が進むサラダ。酒が無くてもうまいサラダ。こいつも定番である。
俺はミーシャが持っていたサラダたちを半分引き受け、他のテーブルへと持っていく。
「まあ……美しいですわ。このオレンジ色の鮮やかな身は魚かしら?」
演習場の中央を通りかかった際に、綺麗で上品な声が俺の耳に入ってきた。
王族関係者のテーブルだ。
「サーモンのカルパッチョですよ、ステア王女殿下」
大皿に美しく並べられたオレンジ色のサーモンに、緑のハーブ、そして透明なオリーブオイルが魔法の灯火を反射してキラキラと輝いている。
「あら、焼いていませんのね……はじめてですわ」
「ええ、生食で大丈夫ですのでご安心ください」
この異世界において、生食はほとんどない。
まあそれは前世においても、日本の刺身文化などを除き同じようなもんではあるが。
よって、魚は焼くというのがこの異世界の常識なのである。
「レモンとオリーブオイルで爽やかに仕上げてありますので、くさみもありませんよ」
俺の言葉を聞き、ステア王女は少しばかり緊張の面持ちでカルパッチョを口に運ぶ。
新しいグルメはなんでもグイグイいく彼女だが、さすがに今回ばかりは慎重になっているのだろう。
そこへ、メイドのリリィさんがステア王女よりも先にカプッといった。
「あ、ちょっとリリィ!」
まあ王女専属侍女としては、生魚大丈夫なんか?てのはあるんだろう。
だが、毒見なんてしてもたぶん……
「ふはぁ……こ、これは……」
リリィさんの口元が緩んだ。
まあそりゃそうだ、この異世界よりも前世現代フードの方が明らかに進んでいるのだから。
そして、その様子をみて取った王女もすぐさまパクリといく。
「……あぁ、お、美味しいですわ。なんて上品なんでしょう、それでいて、この脂の甘みが口の中でとろけますわ」
頬を染めながらうっとりとカルパッチョに舌鼓をうつ王女殿下。
うむうむ、王族にも関わらず未知のグルメに挑戦する姿勢は嫌いじゃない。
「む、ではわしもひと口……」
「どれどれ……」
周囲の重鎮たちもサーモンのカルパッチョに手を伸ばしはじめた。
「おお、これはまろやかだがさっぱりとしておる!」
「ふむ、ビールやワインに合うのう~~」
よしよし、カルパッチョの素晴らしが伝わったようだな。
俺もカルパッチョをつまんで「うん、やっぱうまい」とひとり頷いていいると、新たな料理が運ばれてくる。
「まあ、このにおい……お魚ですわね!」
「そうですね姫様。今度のは焼いてあるようです」
ステア王女とリリーさんの前に置かれた大皿。
脂の焼けたにおいと醤油が焦げる香ばしい香りをプンプンさせて現れたのは……
「王女殿下、これはホッケ焼きですね。」
各テーブルに置かれていく巨大なホッケの開き。湯気を立てるその身に、騎士たちが一斉に箸を突き立てる。
「まあ、美味しそうなにおいですわ」
王女殿下が箸を身の中心に入れると、驚くほどふっくらとした肉厚な白身が抵抗なくほぐれる。
白い身を持ち上げた瞬間、脂が滴り落ちてホッケの芳醇な旨味が立ち上った。
彼女が一口頬張ると、皮のカリカリッとした香ばしさの後に、肉厚な白身がほっくりと崩れ濃厚な脂の甘みと旨味が口いっぱいに広がる。
「ふあぁあ~~これはまた先ほどのカルパッチョとは違う美味しさが……」
「はい、姫様。なんだか安心する味ですね」
ステア王女とリリィさんが夢中でホッケをつつきだした。
わかる。一度食べ出すと、つつきまくってしまうんだよな。
「……うおおお! 皮がパリッパリだ!」
「身が厚い! 脂が……脂ののりが良いぞ!」
居酒屋タケオ(演習場)のあちこちからうまうまの声が上がり始めた。
「ステア王女、この大根おろしに醤油をかけて食べるとより美味しいですよ」
大根おろしに醤油を少し垂らして食べれば、さっぱりとした酸味と濃厚な脂が交わり、酒でも白ご飯でもなんでも進ませる至高の味わいとなる。
もうステア王女からは、言葉はもれずに至福の笑顔のみが漏れていた。
よしよし、居酒屋メニュー大成功のようだな。
まだまだいくぞ……
「―――現代フード召喚!」
「―――現代フード召喚!!」
「―――現代フード召喚!!!」
俺の手は止まらない。テーブルの上が少しでも空けば、そこにはすぐさま新たな料理が補充される。
「先輩~~! 焼き鳥追加100本、唐揚げとポテトフライはもう山盛りで全部のテーブルに置いてきました~~」
ミーシャが、もはや走る配膳マシーンと化して報告に来る。額には汗が光っているが、その目は不思議と楽しそうだ。
「よし、どんどんいくぞ! 今日は騎士たちの胃袋限界まで付き合ってやる!」
鉄板の上で弾ける餃子の音。おでんの鍋から立ち昇る心を落ち着かせる湯気。だし巻き卵の優しい黄色。キムチの鮮烈な赤。ホッケの香ばしい煙。そして、揚げたての唐揚げの香りと、焼き鳥のタレの匂い。
それらすべてが混ざり合い、この異世界には存在しなかった現代居酒屋という名の幸福な空間が、一つの巨大な聖域を作り上げていた。
これだ。
和食、洋食、中華などなど……旨いものなら節操なく取り込み、酒やご飯に合う形に昇華させる。これが正しい食べ方だなんて説教臭いルールはない。ただ隣にいる奴と笑いながら旨いものを食い、酒を流し込む。これこそが大衆居酒屋という名の「聖域」の力なんだ。
「ふぅ……今日は楽しいわ」
俺はひとり呟いた。
さてと……
流石にこれだけ食えば、会場全体が心地よい満腹に足を踏み入れ始めているのも確かだ。
そろそろ締めの時間だな……
俺は調理台に立ち、再び魔力を練り始めた。

