「ぷはっ~~、喉は潤った。うまい」
俺は自分用のジョッキを置き、大きく息を吐いた。
視界の端でミーシャが「先輩~~次ですね♪」という顔で腕まくりをする。
お通しだけでこれだけの盛り上がりだ。だが、日本の居酒屋の真髄はここから始まる。
魔力回復合戦で得た過剰なまでのエネルギーは全くもって健在、指先から火花となって散りそうだ。
「―――現代フード召喚!!」
俺の言葉と共に 召喚された現代フードがこれでもかというほどその姿を現する。そして次の瞬間、居酒屋タケオ(演習場)は「香り」の暴力に支配された。
ニンニクが詰まった匂い、出汁の芳醇で優しい香り、醤油の焦げる香ばしさ、オリーブオイルのにおい。そしてチーズの濃厚な余韻。
「な、ななな……なんですの、この香りの大洪水は!?」
ステア王女が、あまりの情報の多さに目を回している。
そうだろうそうだろう、居酒屋と言えばテーブルいっぱいにひしめく料理たちだからな。
「さあ、ここからが本番だ! 好きなものバンバン食ってくれ!」
まず騎士たちが一斉に飛びついたのは、ジュウジュウと凄まじい音を立てる鉄板だった。
「タケオ、この……白い塊は何だ? 下に薄い羽がついている」
「それは鉄板餃子だ。タレ(ラー油と醤油に酢)をつけて、熱いうちに一気にどうぞ」
シュトリアーナが、箸(すっかり扱いに慣れたもんだ)で餃子を一個持ち上げる。
「……はふっ」
彼女が餃子を口に放り込んだ瞬間、パリッという快い音が響いた。直後、彼女の目が見開かれる。
モチモチの皮が破れ、中からニンニクとニラそして挽肉の脂が混ざり合った爆弾が弾けたのだ。
「あつっ……っ、ん、んんんまいっ!! なんだこの中から溢れる汁は!? 濃厚な肉の旨みが、このパリパリの羽と一緒に口の中で踊っている!」
熱いのを我慢しながらも餃子を楽しむ剣姫。
他のテーブルでも、ほとんどの騎士たちがハフハフしている。
「うお……これビールに合うぜ!」
「ああ、たまんらんな!」
騎士たちが叫び、ジョッキを煽る。
そりゃそうだ、餃子とビールに胃袋を躍らせないものはいない。
「タケオちゃ~~ん、このお鍋いろんな具材が入ってるのね♡」
餃子組の満足ぶりにうんうん頷いて各テーブルをまわっていると、艶めかしい声が俺を引き留めた。
フルノラ団長が、まわりに各騎士団の幹部連中を侍らせている。
なるほど、落ち着いた年配の騎士たちが唸ったのは、このおでんってわけか。
まあフルノラ団長は年齢不詳だから、あまり深くつっこまないほうがいいけど。
「この白い半透明の円盤おいしいわぁ~~♡」
「それは大根ですね。時間をかけて出汁を染み込ませてるから絶品でしょう」
俺の説明を聞いた騎士の一人が大根を箸で割る。抵抗なくスッと通り、中から黄金色の出汁とうまみのつまった湯気が溢れ出す。
それを口に運んだ瞬間、彼の表情がとろけた。
「ふぉ……こ、これはなんとも優しい味だな」
「喉を通る時、魂まで温まるような……」
「このからしとかいう黄色いタレをつけると……むっ……鼻に抜ける刺激がまた酒を誘う」
おでんにはビールもいいが、日本酒もあうので追加召喚する。
「おお、この酒もよい!」
「このたまご、味が染みてたまらんのう」
「こんにゃくもよいぞ」
ふふ、もうここ完全におでん屋台だぞ。
着てるのが背広じゃなくて、鎧ってぐらいしか違いがない。
「おお、フルノラ殿。おちょこがあいておりますぞ」
「あら~~ん、ついでくれるのねぇ♡」
フルノラ団長を囲んでおでん逆ハーレム(ただしおっさんメイン)をひとしきり見た俺は、服の袖をちょいちょいと引っ張られた。
「た、タケオさん。この黄色いのなんですか? ふわふわしてます!」
ルリアが目を輝かせて指差したのは、焼き立てのだし巻き卵だ。
「だし巻き卵だ。丁寧に層を重ねて焼いてあるんだぞ」
「ええっ……これたまごなんですか!?」
まあルリアが驚くのも無理はない。この異世界の卵料理といえば硬く焼くカチカチのオムレツが主流だが、これは違う。
期待に胸をふくらませて、だし巻き卵を口にいれるルリア。
「ふあ……」
彼女は幸せそうに頬を押さえた。
「……ふわっとしてるのに、お口の中でジュワッて出汁が広がります。お砂糖の微かな甘みと、お出汁の味が……あぁ、幸せ……」
ふむ、俺もひと口……
なるほど、甘みが強めか。いわゆる関東風だな。
ならば……
「―――現代フード召喚!」
「あれ? タケオさん、これ同じものでは?」
「ま、たべてみ」
首をかしげるルリアに、新たに召喚しただし巻き卵をグイっと差し出す。
パクリと食べたルリアの手が止まった。
「あれ? なんか味がちがいます!?」
「だろ、だし巻き卵といってもいろいろあるんだよ」
「こっちは、なんだか出汁の味が強いような、ちょっと上品な旨みがありますね」
そう、あらたに召喚しただし巻き卵は、薄口醤油がベースの塩気が強めなやつだ。
より出汁の美味さを楽しむ卵、いわゆる関西風ってやつだな。
俺はどっちも好きだ。
そしてどっちも美味い。
ルリアの反応が周りの騎士たちを呼び始める。
「おお、この卵料理はたまらんな!」
「うむうむ、酒にもあうぞ」
「こんな味ははじめてだ。俺が今まで食ってた卵とおなじとは思えん……」
よしよし、こいつも好評だ。
みんなうまそうに食いやがるぜ。
まあ、それもそのはず。
だし巻き卵は居酒屋メニューの定番だ。
いつ行っても、誰かが必ず頼むからな。知らぬ間にテーブルに乗っているってやつだ。それは、こいつにハズレはないという証拠でもある。
「ふぅ~~先輩、とりあえずテーブルに料理がいきわたりましたね~まだまだ全部の料理はだせてないけど」
「ああ、ミーシャお疲れ様。ちゃんと食べてるか?」
という俺の言葉は杞憂だったことがすぐにわかる。ジョッキやら料理やらを運びまくっていたミーシャだが、片手に持つ皿には餃子におでんとだし巻き卵がのっていた。
さすがミーシャだ、心配する必要も無かったか。
「みんな満足してますよ~先輩」
「ああ、そのようだな」
夕食会が始まってある程度の時間が経っていた。
前世ならここらで店員さんが来るのかもしれん。
だが……俺の居酒屋は2時間制なんてケチ臭いことは言わんぞ。
魔力は依然絶好調、満足程度では終わらせん。大満足にしてやる。
俺は自分用のジョッキを置き、大きく息を吐いた。
視界の端でミーシャが「先輩~~次ですね♪」という顔で腕まくりをする。
お通しだけでこれだけの盛り上がりだ。だが、日本の居酒屋の真髄はここから始まる。
魔力回復合戦で得た過剰なまでのエネルギーは全くもって健在、指先から火花となって散りそうだ。
「―――現代フード召喚!!」
俺の言葉と共に 召喚された現代フードがこれでもかというほどその姿を現する。そして次の瞬間、居酒屋タケオ(演習場)は「香り」の暴力に支配された。
ニンニクが詰まった匂い、出汁の芳醇で優しい香り、醤油の焦げる香ばしさ、オリーブオイルのにおい。そしてチーズの濃厚な余韻。
「な、ななな……なんですの、この香りの大洪水は!?」
ステア王女が、あまりの情報の多さに目を回している。
そうだろうそうだろう、居酒屋と言えばテーブルいっぱいにひしめく料理たちだからな。
「さあ、ここからが本番だ! 好きなものバンバン食ってくれ!」
まず騎士たちが一斉に飛びついたのは、ジュウジュウと凄まじい音を立てる鉄板だった。
「タケオ、この……白い塊は何だ? 下に薄い羽がついている」
「それは鉄板餃子だ。タレ(ラー油と醤油に酢)をつけて、熱いうちに一気にどうぞ」
シュトリアーナが、箸(すっかり扱いに慣れたもんだ)で餃子を一個持ち上げる。
「……はふっ」
彼女が餃子を口に放り込んだ瞬間、パリッという快い音が響いた。直後、彼女の目が見開かれる。
モチモチの皮が破れ、中からニンニクとニラそして挽肉の脂が混ざり合った爆弾が弾けたのだ。
「あつっ……っ、ん、んんんまいっ!! なんだこの中から溢れる汁は!? 濃厚な肉の旨みが、このパリパリの羽と一緒に口の中で踊っている!」
熱いのを我慢しながらも餃子を楽しむ剣姫。
他のテーブルでも、ほとんどの騎士たちがハフハフしている。
「うお……これビールに合うぜ!」
「ああ、たまんらんな!」
騎士たちが叫び、ジョッキを煽る。
そりゃそうだ、餃子とビールに胃袋を躍らせないものはいない。
「タケオちゃ~~ん、このお鍋いろんな具材が入ってるのね♡」
餃子組の満足ぶりにうんうん頷いて各テーブルをまわっていると、艶めかしい声が俺を引き留めた。
フルノラ団長が、まわりに各騎士団の幹部連中を侍らせている。
なるほど、落ち着いた年配の騎士たちが唸ったのは、このおでんってわけか。
まあフルノラ団長は年齢不詳だから、あまり深くつっこまないほうがいいけど。
「この白い半透明の円盤おいしいわぁ~~♡」
「それは大根ですね。時間をかけて出汁を染み込ませてるから絶品でしょう」
俺の説明を聞いた騎士の一人が大根を箸で割る。抵抗なくスッと通り、中から黄金色の出汁とうまみのつまった湯気が溢れ出す。
それを口に運んだ瞬間、彼の表情がとろけた。
「ふぉ……こ、これはなんとも優しい味だな」
「喉を通る時、魂まで温まるような……」
「このからしとかいう黄色いタレをつけると……むっ……鼻に抜ける刺激がまた酒を誘う」
おでんにはビールもいいが、日本酒もあうので追加召喚する。
「おお、この酒もよい!」
「このたまご、味が染みてたまらんのう」
「こんにゃくもよいぞ」
ふふ、もうここ完全におでん屋台だぞ。
着てるのが背広じゃなくて、鎧ってぐらいしか違いがない。
「おお、フルノラ殿。おちょこがあいておりますぞ」
「あら~~ん、ついでくれるのねぇ♡」
フルノラ団長を囲んでおでん逆ハーレム(ただしおっさんメイン)をひとしきり見た俺は、服の袖をちょいちょいと引っ張られた。
「た、タケオさん。この黄色いのなんですか? ふわふわしてます!」
ルリアが目を輝かせて指差したのは、焼き立てのだし巻き卵だ。
「だし巻き卵だ。丁寧に層を重ねて焼いてあるんだぞ」
「ええっ……これたまごなんですか!?」
まあルリアが驚くのも無理はない。この異世界の卵料理といえば硬く焼くカチカチのオムレツが主流だが、これは違う。
期待に胸をふくらませて、だし巻き卵を口にいれるルリア。
「ふあ……」
彼女は幸せそうに頬を押さえた。
「……ふわっとしてるのに、お口の中でジュワッて出汁が広がります。お砂糖の微かな甘みと、お出汁の味が……あぁ、幸せ……」
ふむ、俺もひと口……
なるほど、甘みが強めか。いわゆる関東風だな。
ならば……
「―――現代フード召喚!」
「あれ? タケオさん、これ同じものでは?」
「ま、たべてみ」
首をかしげるルリアに、新たに召喚しただし巻き卵をグイっと差し出す。
パクリと食べたルリアの手が止まった。
「あれ? なんか味がちがいます!?」
「だろ、だし巻き卵といってもいろいろあるんだよ」
「こっちは、なんだか出汁の味が強いような、ちょっと上品な旨みがありますね」
そう、あらたに召喚しただし巻き卵は、薄口醤油がベースの塩気が強めなやつだ。
より出汁の美味さを楽しむ卵、いわゆる関西風ってやつだな。
俺はどっちも好きだ。
そしてどっちも美味い。
ルリアの反応が周りの騎士たちを呼び始める。
「おお、この卵料理はたまらんな!」
「うむうむ、酒にもあうぞ」
「こんな味ははじめてだ。俺が今まで食ってた卵とおなじとは思えん……」
よしよし、こいつも好評だ。
みんなうまそうに食いやがるぜ。
まあ、それもそのはず。
だし巻き卵は居酒屋メニューの定番だ。
いつ行っても、誰かが必ず頼むからな。知らぬ間にテーブルに乗っているってやつだ。それは、こいつにハズレはないという証拠でもある。
「ふぅ~~先輩、とりあえずテーブルに料理がいきわたりましたね~まだまだ全部の料理はだせてないけど」
「ああ、ミーシャお疲れ様。ちゃんと食べてるか?」
という俺の言葉は杞憂だったことがすぐにわかる。ジョッキやら料理やらを運びまくっていたミーシャだが、片手に持つ皿には餃子におでんとだし巻き卵がのっていた。
さすがミーシャだ、心配する必要も無かったか。
「みんな満足してますよ~先輩」
「ああ、そのようだな」
夕食会が始まってある程度の時間が経っていた。
前世ならここらで店員さんが来るのかもしれん。
だが……俺の居酒屋は2時間制なんてケチ臭いことは言わんぞ。
魔力は依然絶好調、満足程度では終わらせん。大満足にしてやる。

