左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 「うわぁ~~なんこれ……もはや山火事のあとっしょ……」

 スリーナが呆れた声を漏らす。
 さっきまで青々とした草原だった場所は、今や真っ黒なはげ山みたになってる。
 焦げた臭いが鼻につき、地面には炭とレッドボアの丸焦げた残骸が散らばっていた。

 「すげぇ、おれっちの筋肉でもこんなことできないぜ」

 横でゴンスが対抗して胸を張ってみせるが、筋肉を比較対象とする意味がわからん。

 まあ確かに―――想像以上だった。
 ちょっと火を吹かせただけのつもりだったんだが……精霊の火力、規格外かよ。

 「あわわ……さ、サラちゃんってこんなにすごかったんだ……」

 ルリアは両手で頬を押さえながら大きな目をさらに丸くする。
 その横で……

 「キュルゥウウウ♪」

 サラマンダーが満足げに喉を鳴らし、尻尾をぱたぱた揺らしていた。
 やったったわ~~みたいな顔しとる。

 と、俺の袖がクイクイと引っ張られる感触がした。

 「……タケオさん」

 見上げてきたルリアが、少し照れた表情で言った。

 「はじめて精霊魔法がうまくいきました。タケオさんのおかげです」
 「いや、俺はきっかけを与えただけだ。今後はサラとしっかりコミュニケーションとれよ」

 「はいっ!」

 ぱぁっと笑った瞬間、ルリアの胸部にある二つの凶器がブルンと揺れた。
 くそっ……こいつ精霊魔法より恐ろしい攻撃をしてくるじゃないか。

 なんて、おっさんくさいことを考えていると。

 「キュルぅ♪」

 サラが勢いよく飛びついてきたので、反射的に避けた。

 結果、目標を失ったサラマンダーはべしゃっと地面へ顔面ダイブした。

 「あっ……だ、大丈夫サラちゃ―――」

 「ギュぅう……」

 低めの渋い声をだす赤トカゲの精霊。不満顔で俺を見る。
 少し罪悪感はあるが、俺にだって理由がある。そんな燃えた体で抱き着かれたら普通に熱いだろし、ぜったい火傷するし。

 「もう~タケオさん、女の子を邪険に扱っちゃダメですよ~」
 「……この精霊、女子なんか?」

 「むしろなんで疑問に思ってたんですか!?」

 いやいや、見た目ほぼ火を纏ったトカゲだぞ。性別即答を求めるほうが難しいだろ。

 でもまあ、こうして美少女と精霊に囲まれるなんて俺の人生ではレアだ。前世でも騎士団本部でも書類まみれだったからな。
 改めて環境が変わったんだなぁと、ちょっとしみじみとしてきた。

 そこへ馬車の御者から、準備ができたので出発するとの声がかかる。
 馬車にもどりぎわ、スリーナとゴンスが頭を下げた。

 「やるじゃん、おっさん。ちびっこ、マジ助かったわ」
 「だな。……おっさん、嬢ちゃん。俺っちの筋肉も救われたぜ」

 ふたりは不器用ながらも頭を下げた。
 ヤンキーギャル騎士に筋肉騎士か。

 その姿に、思わず笑ってしまう。

 「ははっ……お前ら、クセ強いけど悪いやつらじゃないな」

 俺の言葉にスリーナは鼻で笑い、ゴンスは照れ隠しに頭を掻く。
 礼をちゃんと言えるやつは意外にも少ない。前世でも騎士団本部でもそれは同じだった。

 ま、同僚となるんだから、おもろい奴らがいたほうがいいか。

 俺たちを乗せた馬車は、ゆっくりと再び動き出した。



 ◇◇◇




 馬車はガタゴトと揺れながら黒焦げになった草原を抜け、また元の静かな道へ戻っていた。
 緊張感のあった?戦闘が終わると、馬車の中はどこか気の抜けた空気になる。

 ふぅ……疲れた。

 ―――で。

 腹が減った。

 ドタバタすれば腹が減る。これは前世でも異世界でも変わらん法則だ。

 「よし……」

 俺は手を軽くかざし、魔力を少し練る。

 「―――現代フード召喚」

 手元に、ずしりと温かい紙袋が現れた。
 おもむろにガサガサと中身を取り出して、膝の上に広げる。
 ハンバーガーにポテト、そしてコーラ。

 前世でも揺るぎない三種の神器である。

 包装紙を開き、まずはハンバーガーを一口。

 肉のうまみと、バンズの食感、そして濃いケチャップの味が一斉に俺の口を襲う。
 合間にポテトをつまんでほいほい口に放り込む。そこへコーラをストローでじゅううっと、喉に走る刺激……ぷはぁっ!

 「くぅぅ~~……これだよこれだよ……」

 思わず声漏れるわ。最高すぎんだろ。

 ……と。

 なんか視線を感じる。ちょっと前にも感じたやつ。

 じー。

 俺を見る可愛くて大きな目。
 さらにその横で赤いやつが同じ角度でじー。

 ルリアとサラマンダーのサラだ。

 若干よだれ垂らしている……

 「……食うか?」

 言った瞬間、ふたりは同時にコクコクッと首を縦に振った。

 まぁ魔力はまだ余裕あるし、今日は助けてもらったしな。

 「ほれ。ハンバーガーセットだ」
 「ふぁぁ……! す、すごい……本当に出てきた……!」

 ルリアは両手でハンバーガーを持ち、恐る恐るかぶりつくと……

 「……っ! なにこれ……おいしい……! パンやわらかい、お肉みたいの入ってる!?」

 目を潤ませながら幸せそうにかぶりついていた。
 そのままポテトにかじりつき―――

 「あっ……これじゃがいもですよね!? すっごい細くて、カリカリしてて……なんか、クセになる~~っ♡」

 まあポテトの魔力は凄まじいからな。
 かくいう俺も、ポテトがあれば何もいらんとさえ思った時期もある。こいつは異世界でもその本領を発揮しているようだ。
 そしてコーラをひと口、くちに含むと。

 「ひゃっ!? なんですこれ!? 舌が……喉が……はじけてる!?」

 まあ炭酸文化のない世界だからな。初見の反応は大体これだ。
 食べるたんびに驚きのリアクション連発のルリアに対して、隣ではサラが「キュアキュア~~♡」と口を動かしていた。

 にしても、この子はいったいいつ精霊召喚が解除されるんだろうか。

 じ~~~。
 そしてまた視線を感じた。

 今度はスリーナとゴンスか。2人とも全力で期待した目を俺に向けていた。

 「……しゃーねぇな。ほら、特別サービスだからな」

 ふたりにもハンバーガーセットを出してやる。

 「す、すげぇ……これも魔法か?」
 「さっきの赤い粉といい、タケオ……ほんと変わった魔法使うわね」

 とか言いながらも、ふたりの手は迷わずハンバーガーへ。食う気満々じゃねぇか。

 「うわ! なんこれ、激うまなんだけど!?」
 「ほんとだ、おれっちこんなの食べたことないぞ!?」

 よしよし、予想通りの反応だな。うまそうに頬張る姿が微笑ましい。
 魔力を消費して出したかいがあるってもんだ。

 「―――ッッぶふぉあああ!?」

 ゴンスがいきなりコーラを一気飲みして、盛大に吹き出した。

 「お、おれっちの口が爆発したぁ~~!!」
 「バカ、一気に飲むからだ」

 しゃ~ないな。俺はため息をつきつつも、新しいコーラを召喚してゴンスに差し出す。

 「ほら、ゆっくり飲むといいぞ」
 「うぅ……タケオっち……おまえ、いい奴だな……! おれっちと筋ダチになろうぜ!」

 なんだそれは? やめろ肩を組むな。筋肉があつくるしい。
 その横でスリーナがコーラを飲み、満足そうに息を吐いた。

 「ふー、あたしこれ好きだわ。刺激あるし、なんか生きてるって感じするわ」
 「おれっちは断然ハンバーガーだな! サンドイッチのくせにパンチ強すぎるぜ」
 「わたしは……迷いますけど……ポテトです! ポテトに1票!」

 「キュアキュア~~♡」

 サラはハンバーガー→ポテト→コーラ→ハンバーガーの高速ループである。
 一番食べ慣れてる感じがして謎だ。誰に仕込まれたんだお前? まさか転生者じゃないだろうな。

 ま、食べ方なんて人それぞれだけど。
 サラのようにまんべなく食べるのがオーソドックスではあるが、一品すべて食べ干してから次にいくやつもいるだろう。

 しばらくして馬車の中には、噛む音、飲む音、幸せそうな息だけが響いていた。
 静かに、幸せそうに食ってる顔ってのはいいもんだ。

 俺もコーラを飲み、背もたれに体を預けた。

 ふぅ……

 魔力もけっこう使ったし腹も満たされたし、馬車の揺れがちょうどいい。
 目を閉じると、わずかな振動と遠くの風の音が心地よく響いた。

 ブラック職場から離れて、初めて感じるまともな時間。
 こういうのが欲しかったんだよ。

 そのまま俺は、ゆっくりと意識を手放していった。