左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 「タケオ、先日の演習報告書はどこだ!」
 「ああ、それなら二番目の引き出しにありますよ」
 「タケオ、今月の収支報告書も必要だ!」
 「その封筒にはいってますよ」

 ここは剣と魔法のファンタジー世界。そして先程から連呼されているタケオとは俺のことだ。
 そしてガミガミ言ってる女騎士が俺の上司殿である。

 この名前からもわかるとおり俺は転生者だ。
 前世で入ったベンチャー会社が超ブラック企業でデスクの上で過労死してしまった。

 なんでもチャレンジ! チャレンジにまさるものなし!
 少数精鋭で時代を切り開け!
 そんな社風で聞こえはいいけど、実体はめちゃくちゃなブラックだった。過労死にチャレンジしてたんだから世話はない。

 だが幸か不幸かわからんが、俺は転生という二度目のチャンスをもらった。
 だから俺は決意したのだ。
 転生した2度目の人生は安定した職について、出世街道は望まずのんびり生きると。

 生きていける収入が得られて住む場所が確保できる。それも安定したでかい組織。

 俺は王国の騎士団に入団した。この国の超巨大組織である。
 ちなみに俺は剣が秀でているわけでも凄い攻撃魔法や回復魔法が使えるわけでもない。
 内勤職希望で入団したのだ。この巨大組織は、なにも剣を振るったり魔法をぶっ放したりするだけが仕事じゃない。騎士団本部の庶務課に配属となった俺は、前世の内勤経験もあり滞りなく仕事を終えて夢の定時帰り&安定職につけてホクホクだった。休日は好きなことが出来るし、平日の夜だってけっこう色々できちゃう。

 よしよし、これは最高だぜ~♪ と思っていたのだが……

 なぜかこの女騎士に気に入られて、こき使われる日々に。
 前世でブラック、転生してブラックって……なんだよこの人生。
 しかも俺はもう36歳だぞ。おっさんに光をくれたっていいと思うよ。

 前世と今世を回想して項垂れていると、扉をノックする音が聞こえた。
 ああ、書類を回収しにきたやつらか。

 「シュトリアーナ特別一等騎士さま、しょ、書類を拝領致しました!」
 「きょ、今日もお美しい限りであります! さすが氷剣姫さま!」

 「……ああぁ?」

 「ばか、いらん事言うんじゃない!」
 「ふはぁ……し、失礼しましたであります!」

 ガチガチの震え声で退出しようとする騎士2名。
 ただ書類を取りに来ただけなのに、背筋ピンピンに張っている。

 「用が済んだならさっさと退出しろ」
 「は、はひぃい!」
 「なんだそのしまらん返事は、貴様らそれでも王国騎士団の誉れ高き騎士か!」
 「「は、はひぃいでありますっ!」」

 逃げるようにこの場を去って行った2人。

 冷酷無慈悲の氷剣姫。
 この女騎士シュトリアーナの二つ名である。

 純白のドレスアーマーに身を包んだうら若き美人騎士。
 その胸部はいまだ成長を止めないのか、歩くたびにアーマー胸部がゆっさゆっさしている。
 こんな美人騎士が恐れられる理由はただひとつ。

 彼女が実力バリバリのトップ一等騎士だからである。
 16歳で一等騎士になり、18歳で魔物や盗賊団の単独討伐をやってのけて王国から特級の称号を与えられた。
 その表情に笑みはなく、戦いとなれば容赦なく蹂躙する。

 白銀の透き通るような綺麗な髪を揺らして、紅茶を優雅に飲む特級騎士どの。
 その対面で、ガリガリ書類作成する俺。脇には未作成の報告書が山のように積まれている。

 俺はある出来事を境に、シュトリアーナの秘書みたいなことをやらされている。本業の庶務課もこなしつつ。
 本来ならばあり得ないわがままだが、氷剣姫の威光はそんな常識は関係ないらしい。そして、なぜか庶務課の仕事も増え始めた。本部の庶務課団長殿は俺が剣姫に近いのが気にくわんようだ。
 まったく、本来なら20歳ピチピチ超絶スタイル抜群美人騎士とのウハウハ勤務なのに、まったくそんな気分にならん。

 「……おい。いまなにか失礼な事考えてただろう」

 おっと、思わず顔に出ちまってたか。
 まあ彼女もこんなことぐらいで怒りはしない。

 「これが最後かもしれんな」

 そんな剣姫がぽつりと漏らした。
 普段の彼女とは違い、少しばかり弱々しさを含んだような声色。
 珍しいな、風邪でも引いたんか? いや極寒の雪山でホワイトベアーとやり合ったらしいし、それはないか。

 「……私は異動になる」

 ええ? マジすか!?

 「最前線にいく」
 「うわぁ……それはご愁傷……じゃなくてとんでもない栄誉ですね!」
 「貴様、顔がにやけてるぞ」

 やだ、シュトちゃんったらすんごい目で睨んでくるじゃないの。

 にしても最前線かぁ……
 この世界には魔物が存在する。最近一部の地域で魔物たちが活発化しているらしく、王国騎士団も本腰を入れて討伐に乗り出すみたいなことを言ってたな。
 まあそれが騎士団の本業であることは間違いない。

 「そこでだ……おまえも連れ……」

 え? ウソでしょ。

 その言葉の続きは聞きたくない。嫌だ、最前線なんて。

 絶対いや! 断固拒否する! 死んでも断る!

 あんたは一等騎士の中でも選ばれた特級騎士さま。んで、俺はしがない三等騎士。
 剣の腕なんかからっきしだし、そもそも腰にぶら下げても重いだけだから中身は竹光に変えてるし。
 おれは内勤専門で、しかも三等騎士で、おっさんなの! 俺が働くべき場所はそこじゃない。

 「―――連れていきたかったが……無理だった」


 しゃぁあああ――――――!!


 「おまえ、いま心の中でガッツポーズしただろ?」

 してないしてない。まあ拳は握ったけど。

 「どうしても無理だった。将軍に何度も掛け合ったんだが」

 掛け合ったのかよ……

 「最後の手段として、懇意にさせてもらっている王女殿下にも」

 おいおいおい、正気か?
 王女に「おっさん連れてっていいですか?」て聞くだと?

 ヤバすぎるだろ。この女騎士、どんだけ俺に固執してんだよ。
 まあ、その理由は……

 「ねぇタケオ、いつもの……して(じゅるっ)」

 トロンとした瞳で俺に求め始めるシュトリアーナ。頬は少しばかり赤みがかかっており、心なしか呼吸が荒くなり始めている。
 俺は無言で頷くと、軽く深呼吸をした。

 「きたぁ~~♡ 今日も……最高に……ッ!」

 ちなみにエロいことが繰り広げられているわけじゃないからな。

 「ああぁ~~これこれ~~今日も凄くいいわぁ~~♡」

 繰り返すが、エロいことはなにもしてないからな。

 「タケオぉ~~もっとちょうだいぃ♡」

 我慢できないといった感じで、俺を急かす氷剣姫。
 しゃ~ないと、俺は無言でうなずき、軽く深呼吸して魔力を集中―――

 ぽわぁ~という輝きと共に……
 俺の手のひらの上に、ふわりと湯気をまとった紙包みがポンと現れた。

 「わぁ~~でてきた~~♡」

 さっきまで鋭い眼光で騎士2名を震え上がらせてた美人剣姫が、その紙包みを夢中であけてパクリとかぶりついた。
 かぶりついた瞬間、彼女の顔から覇気が消え代わりに蕩けきった乙女の表情が浮かぶ。

 「ん~~~~♡ この……味ぃいい……たまんないッ♡」

 外に聞こえたらマズい声色が室内に響きまくる。

 彼女が必死になって頬張っているもの。
 それは……

 ハンバーガーである。

 なぜこんな剣と魔法のファンタジー世界に、そんなものがあるのかって?


 そう、これこそが俺の唯一使える魔法、転生時に与えられた特別なスキル……
 ――――――『現代フード召喚』である。


 食うこと。これが前世の俺にとって唯一の楽しみだった。食ってる時が一番幸せ。
 屋台食べ歩きにジャンクフードから高級料理まで。ジャンルはなんでもいい。とにかく食べるのがすき。
 だが際限なく増えていく仕事に時間のほとんどを奪われ、その唯一の楽しみすらも味わえなくなってしまった。
 だから俺は転生させてくれた女神さまに、お願いしたんだ。

 第二の人生―――自分の好きなご飯を存分に食べまくりたい。

 その望みが叶って、俺は特別な力が与えられた。
 まあぶっちゃけ、飯を出すだけの魔法なんだが。俺にとっては最高の魔法だよ。

 そんな俺の特殊スキルより生み出されたハンバーガーを食べ終わった剣姫が、ぽつりと呟いた。

 「タケオ……私はもう最前線に行く。だから……言わせろ」

 そう言って彼女は真剣な眼差しを俺に向けてきた。

 「これ……もう食べられないの……イヤぁぁぁぁ!!」

 駄々をこねはじめた氷剣姫は、俺のハンバーガーをねだり続けるのであった。
 ま、これが最後だろうし。存分に楽しませてやるか……

 ゾクっ……

 え……ゾクってなに? 最後だよね? 



 ◇◇◇



 氷剣姫が魔物ひしめく最前線へ旅立った翌日。
 俺は一等騎士庶務課団長室に呼び出されていた。

 「タケオ、おまえに三等騎士団食堂課への転属を命ずる」
 「はい?」

 一等騎士団長がその肥えた腹をブルンと揺らして、口角を吊り上げた。

 「なにを呆けた顔をしとる。貴様は辺境の地へとばされるのだ!」
 「ほう」
 「クハハハ~氷剣姫に取り入り、分不相応な一等騎士団におった貴様もここまでじゃ~~」

 まあ、こいつは元から俺を良く思ってなかったのは知ってる。
 が……本来の人事考課としてはおかしい。本部庶務課ではガッツり仕事こなしたし、あわせて剣姫の秘書みたなことまでやらされてたんだからな。

 てかこいつ自身、氷剣姫に邪な感情を抱いているってのもあるんだろう。いつもエロい目でジロジロ見てたし。あの剣姫、見た目はぴかいちだからな。

 辺境に左遷か……

 ついにきた……

 きたきたきたぁ~~~!

 やっとこのブラックから解放されるぜ。
 やっほ~~い! ついにガチの後方支援だ~辺境だ~~!

 口元が緩む俺に、団長はさらに勝ち誇る。

 「泣いて感謝しておるのだろう? 新しい任が嬉しいか?」
 「はい、とても(最高すぎて怖いくらいです)」


 こうして俺の現代フードでうまうまな辺境スローライフ勤務が、始まるのであった。