料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 俺はドラゴンの肉片を回収すべくマジックサイドポーチを開いた。すると、巨大な肉の塊たちはスルスルとその袋に収納されていく。
 いやぁ~~想像以上に良い食材に出会えたぞ。
 俺がウキウキしていると、後ろから声がした。

 「あたしはレイナよ。そ、その……た、助けてくれて……感謝する」
 「ああ、別についでだったからな。気にするな」

 少し落ち着いたのか、顔に締まりが戻って来た女剣士。

 「あんた、名のある冒険者なの?」
 「んん? ああ、俺はシゲルだ」
 「シゲル……聞かない名前ね。いったい何者?」
 「え、料理人だけど。メタリノって町で食堂をひらいている」

 「りょ、料理人!? ウソでしょ。包丁でドラゴン討伐してんのよ……まさか偽名で活躍する、影のすご腕高ランク冒険者なのかしら!」

 勝手に興奮しだす女剣士レイナ。
 さっきから感情の起伏が激しい奴だな。

 「いや、冒険者登録は一応しているが。ランクはたぶんEとかじゃないのか」
 「Eランクって……ぜったいあり得ないんだが! シゲルの実力ならばS級いや、それ以上を望めるわよ!」

 凄い剣幕でまくしたててくるレイナ。
 そう言われてもな、そんなん興味ないし。冒険者は食材(魔物)集めと開店資金を稼ぐためにやってただけだから。

 「そういうレイナはどうなんだ? なかなかの腕前に見えたがな」
 「あ、あたしの冒険者ランクはSランク……」

 ほう、S級冒険者か。これは凄いな。レイナの話によれば、最年少の18歳でSクラスに昇格したばかりらしい。
 そして今回の討伐クエストを受注して、こんな辺境の山奥まで来たようだ。

 「でも……レッドドランゴンの討伐クエストは失敗よ」

 ガックリと肩を落とすレイナ。どうやらクエスト難易度の目測を見誤ったのか。
 じゅんぶん素質はあると思うがな。単に調子が悪かったのかもな。
 まあ言いたくない事情もあるのかもしれんし、なにより―――

 「さて、はやく戻らんと。まかないの時間に間に合わん」

 ドラゴンの肉片はすべてマジックサイドポーチにおさまった。
 では行くか……と一歩踏み出そうとした時……

 クゥ~~

 レイナの腹がかわいく鳴った。

 俺たちはしばらく無言で見つめ合う。

 「なあぁあ! こ、これは違う! こ、こっちを見るな!」

 さきほどまでの凛々しい剣士はどこへやら、彼女の頬が見る見るうちに朱に染まりはじめた。

 なるほど、これが不調の原因か。

 腹をすかして戦闘など、言語道断だよ。

 「よし、レイナ。おまえも食ってくか」
 「え? なにを?」
 「俺のド田舎食堂で飯を食わせてやると言ってるんだ。腹減ってんだろ?」
 「え、えっと。でも……」
 「まあ俺が作りたいだけだから、遠慮はいらん」

 「じゃ……じゃあ。お邪魔させて頂くわ……」

 困惑と僅かな期待が入り混じったような表情で彼女が顔を上げた。腹減ったら飯を食う。とりあえずやることはそれしかないからな。

 「安心しろ、死ぬほどうまいの食わせてやる」
 「ほ、ほんとうかシゲル!」

 パアっと花咲くような笑顔になったレイナ。
 よしよし、素直な感情でよろしい。食は誰にとっても大事なもんだ。

 「んじゃ、走るぞ。いけるよな?」
 「え? 走るって……たしかメタリノって馬を飛ばしても1日以上はかかる……」

 俺は食材を探しまくってたら、勝手に足腰が鍛えられていた。
 だから馬なんかより走った方がいい。それに彼女もS級冒険者、この程度なら余裕だろう。


 「なあシゲルさすがにこの距離は――――――ってもう走ってるしぃいいい! 速すぎるしぃいいい! なんなのよこのおっさん!!」



 ◇◇◇



 「コレット、戻ったぞ~~」

 「あ、その声は店長ですね~おかえりなさ~~い」

 俺が店につくと、元気な声が店内から返ってきた。
 店の引き戸がガラガラという音とともにひらき、栗色の髪がふわりと揺れる。

 「食材は確保できましたか~♪」
 「ああ、もちろんだ」

 俺がサムズアップで返すと、その琥珀色の瞳をキラキラさせるコレット。

 「最高の獲物が獲れたぞ」
 「わぁ~い、まかない楽しみですぅ……って、え?」

 その看板娘の笑みが一瞬で消えた。


 「―――ひぃいい! て、店長が美人騎士さまを狩ってきたぁああ!!」


 コレットが俺のおぶっている女剣士レイナを指さして、あわあわしはじめた。

 「わぁ~~ん、ここは美人美少女専門奴隷落とし裏グルメ専門店だったんだぁ! みかけは閑古鳥が鳴いてるしがない田舎店を装って、裏ではヤバいことしてる闇組織なんだぁ~~」

 なんだその極悪クソ野郎施設は。
 想像力が豊かすぎるぞ。

 「グスン……裸エプロン着させられるんだ。ノーパンで接客させられるんだぁ」

 いや、そんなんしないから。てか、その知識はどっから仕入れたんだよ。

 「何を勘違いしているんだコレット。この子は客だよ」

 そう、俺が走り出したらまったくついてこなかったので、しょうがなくおぶってきたのだ。
 普段の力が出せないぐらい腹が空いてるんだろう。

 「ええぇ……でも気絶してますよ」

 気絶っていうか、こりゃ寝ちゃってるな。

 「おい、レイナ着いたぞ」

 俺は彼女を客席に降ろすと、彼女の肩をかるく揺さぶった。
 瞼が開かれて、その赤い瞳がぼんやりとこちらに向けられる。

 「え……ここは?」
 「俺の店、ド田舎食堂だ」
 「あたしは……たしか途中からシゲルにおぶられ……っ!!」

 一気に顔面を真っ赤に染める女剣士。
 まあ、そこは勘弁してくれ。こんなおっさんにおぶられるとか嫌かもしれんが、レイナに合わせていたらまかないの時間に間に合わんからな。

 そんな俺とレイナの様子を、ジト目でみてくるコレット。

 「ふぅ~ん。なるほどなるほど、これはやはり狩ってきたのかもですね~」

 だから違うというに。

 「コレット、食材を魔導冷蔵庫に入れるから手伝ってくれ」
 「あ、はぁ~い。やった、なんか仕事らしい仕事やっときた~」
 「待たせて悪かったな。うまい飯作ってやるから」
 「やた~~店長が戻って来た時は心臓が飛び出るほど驚きましたけど、もう大丈夫で~す♪」

 ルンルンでスキップしている美少女の前に、さきほど狩ったばかりの食材をマジックサイドポーチからドカドカっとだした。

 「よし、ちゃっちゃとやって調理にとりかかるぞ。頭はまるまるだから俺が運ぶ、尻尾は輪切りにしてるから、積み重ねて入れてくれ」

 にしても……くはぁ~~やっぱ上物だなぁ~
 俺は食材を手にして、ウキウキが止まらなくなってきた。

 「って、あれ? おい、コレット。なにボーっとしてるんだ?」

 コレットが棒立ちで口をぽか~んと開けていた。
 そのぷにっとした頬をつついてみる。

 すると―――


 「ひぃいいいいい! 本当にドラゴン狩ってきたぁああ! なにこの人ぉおおお!!」


 けっきょく驚くのかよ。