料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 昼前のド田舎食堂に懐かしい声が響いた。

 「う、うまっ! こ、これ、これこれ。この味よっ!!」

 カウンター席に座るレイナが、ものすごい勢いでかつ丼をかき込んでいる。
 ……勢いがすごすぎて、ちゃんと噛んでいるのかも怪しいぐらい。

 箸がまるで風のように動き、どんぶりが空になる速度は前世の駅構内の立ち食いそば屋並みだ。
 ただ違うのは、かき込んでいるのがスーツ姿の営業マンじゃなくて、麗しき女剣士だということ。

 「はっ!……シ、シゲル。な、なんか、我慢できずに一気に食べてしまったわ……!」

 「いいんだよ。ありがとな、レイナ」

 「え? ええ! すっごく美味しかったわ!」

 口元を拭きながら、照れくさそうに笑うレイナ。
 よしよし、やっぱりこの女剣士の食いっぷりは豪快で気持ちがいい。

 俺の味を気に入って、また戻ってきてくれる―――
 それだけで、料理人としては最高の報酬だよ。

 「そうだ、忘れていたわ!」

 突然レイナが腰のマジックポーチをがさごそと探り出した。

 「おみやげ、あるのよ。王都からの! はい、これはコレットに」
 「おみやげ!? わぁ~~うれしいですぅ!」

 隣でコレットがぴょんと跳ねる。

 レイナは布包みを取り出して、コレットに手渡した。
 可愛いリボンの付いた小袋。
 コレットが開けた瞬間―――さらに彼女はぴょんぴょん跳ねた。

 「ひゃ~~かわいい~~♪」

 コレットが手にしたのカチューシャだった。中央にかわいらしいリボンがちょんと付いている。
 さっそく小さなあたまにカチューシャをつけて、くるくると店内を躍るコレット。

 「ほう、似合っているじゃないかコレット」
 「ああ、かわいいなコレット」

 「レイナさんありがとうです~!」

 店内を躍りまくるコレットをみて微笑むレイナだったが、再びマジックポーチをガサゴソしはじめた。
 俺に視線を向けた彼女は少し緊張したよううな、照れたような感じで口を開く。

 「で、シゲル。あんたにもあるの」

 「俺にも?」

 「う、うん……よければ受け取って」

 彼女から差し出されたのは、真紅のコックネクタイだった。

 「そ、その……シゲルはいつもコックコートだから。まぁ、その……似合うかなと思って」

 照れ隠しなのか、レイナは目線を逸らしている。

 「おう、ありがたく頂くよ、レイナ」

 いいやつだな……手触りからも上等なものだという事が分かる。
 さっそく俺はその場で首に巻いてみた。
 白い調理服に赤か……けっこう映えるし、これはこれでいいな。

 「わぁ~~店長、いい感じですよぉ! タイをつけるとよりカッコ渋いですぅ~」
 「お、そうか。いいなこれ」

 「よ、よかったわ……気に入ってくれて。正直これでいいのか分からなかったのよ。シゲルのことだから、調理服のこだわりとか厳しそうで……」

 安堵の息を漏らすレイナ。
 なるほどな、いろいろ気をつかって選んでくれたのか。

 「おれは服については、清潔であればそれで良いからな。とくにこだわりはない。うん―――いいコックネクタイだ。気に入ったよ、レイナ」

 「そ……そうか、うん」

 レイナの顔が、ぱぁっと花咲くように明るくなった。
 その笑顔は、彼女の素がにじみ出たような顔だ。

 いい顔をするようになったな。

 そんな穏やかな昼下がり、店の戸口から声が響く。
 どうやら郵便物が届いたらしい。

 「わぁ~~新聞以外の郵便が届くなんて~! なんだろ~うちにも「出店してください」の依頼だったりしてぇ~♪」
 「そんなわけあるか」

 俺が笑いながら答えると、コレットは受け取った郵便物をどさどさとテーブルに置いた。
 おいおい、すげぇ量だな。

 「え、なんですかこの封筒? なんか全部に十字架ついてますぅ~! もしかして店長の悪事がバレたんですかね? あ、それとも家賃滞納の督促?」

 「おい、俺はなにもしてねえぞ。そもそも持ち家なんだから家賃とかないからな」

 ま、実はローンが少しばかりあるけどね。それはさておき。
 この紋章はたしか……

 「そ、それ! 大教会本部の紋章です!」

 奥の席にいたロメリーが、緑の髪を揺らして駆け寄ってきた。

 「なるほど……たしかに、宛名も全部ロメリー宛だな」

 俺が確認すると、ロメリーは青ざめた顔で手紙の束に視線を落とした。

 「ふぁ~~一躍有名店になったのかと思いきや~甘くなかったですねぇ~店長!」
 「そんな手紙が来るわけないだろ」

 俺は今のこのド田舎食堂がちょうどいいんだ。
 好きな時に料理して、客の笑顔が見られればそれで充分。

 だが、そんなことよりも。
 ロメリーの顔色は冴えない。

 「それ、教会からの仕事依頼じゃないのか?」
 「は、はい……たぶん、そうです」

 たく……この子、まだあと一か月は休みのはずなのに。
 居場所を突き止めてまで仕事を押しつけるとは。
 ―――やっぱり、この子の職場環境は想像以上に過酷だな。

 「大丈夫か、ロメリー?」
 「だ、大丈夫です。あの……とりあえず中身を見てみます」

 その小さな声に、俺がうなずいた時だった。
 カウンターから事の成り行きを見ていたレイナが、ロメリーの顔をじっと見つめて「あっ!」と目を見開いた。

 「えっ!? もしかしてロメリー殿? 聖女ロメリー殿なのか!?」

 「え? あなたは……! どこかでお見かけしたことがあると思ったのですが」

 ロメリーもレイナの顔をマジマジと見て、「ハッ」と気づいた素振りをみせる。
 お、2人は知り合いなのか?

 「もしかして――――――深紅の美麗剣士、レイナ様ですか?」

 んん? 

 なんだって?

 「「深紅の美麗剣士!? だれそれ!?」」

 俺とコレットの声が、見事にハモった。

 「ろ、ロメリー殿! その呼び方はちょっと……」

 レイナが顔を赤くしてテーブルに顔を伏せた。