空色の小鳥は、恋をしていた。

 奏楽は、のっそりと起き上がった。

「とにかく、何とかしないと。流石に染谷が帰ってきちゃう」

 わからないなりに、収める方法を考える。
 
「……えい!」

 奏楽は宙に浮く本に手を伸ばした。
 頭を捻った結果、浮いている物を掴んで元の場所に戻すしか思いつかなかった。

 奏楽の手が、空を切った。
 掴もうとした本が、まるで奏楽の手を避けるみたいに横に流れた。
 何度も掴もうとするも、本がひょいひょいと左右に揺れて、触れない。

「なんで……? 誰かが動かしてるの? 本に知能があるの?」

 じっと見詰めていたら、本がニタリと笑った気がした。
 ぞっと血の気が下がる。
 奏楽はブンブンと首を振った。

(僕の悪い癖。本が笑うわけない。ただの偶然)

 気持ちを切り替えて、本に手を伸ばす。
 やっぱり避けた。

「だから、何で!」

 段々、腹が立ってきた。
 奏楽はぴょんぴょん飛び上がりながら、何度も本を掴みに行った。

「避けるなぁ! 降りて来て、本棚に入ってよぉ!」

 もはや半泣きで訴える。
 そんなことを繰り返していたら、ドアの鍵が開く音がした。

(染谷が帰ってきちゃった、どうしよう……)

 血の気が下がって、絶望的な気持ちになる。
 ドアノブが回るのを見詰めて、奏楽は駆け寄った。

「待って、染谷……」

 その瞬間、浮いていた本やゴミ箱が、床に落ちた。

「え……なんで」
「小鳥遊? 大きな音がしたけど、何かあった?」

 部屋の中を呆然と眺める。
 そのすきに、優希がドアを開けた。

「あ! まだダメ……だったのに」

 部屋の床に、本やあみぐるみが散乱している。
 優希が驚いた顔で、部屋の中を眺めた。

「何があったんだ?」
「えっと……片付け……そう、部屋の整理をしていて」

 さすがに苦しすぎる言い訳だ。

「途中で盛大に、転んじゃって」

 ビクビクしながら、言い訳を必死に考える。
 悲しいくらい、嘘くさい。
 優希はきっと訝しい顔をしているに違いない。
 怖くて顔が見られない。奏楽は深く俯いた。

「え……大丈夫? 怪我してない?」

 優希の手が、奏楽の肩を撫でた。

「僕は、大丈夫」
「小鳥遊が怪我してないなら、良かった」

 優希の優しい声が沁みる。
 奏楽は恐る恐る顔を上げた。

「ごめん」
「小鳥遊が無事なら、いいよ。二人でやれば、すぐに片付くよ」

 優希がいつものように笑う。
 王子様スマイルが眩しくて、奏楽は目を細めた。

(部屋の中ぐちゃぐちゃになってるのに、怒らない。やっぱり染谷は優しい)

 部活終わりで疲れているはずなのに、嫌そうな顔も見せない。
 明らかに嘘にしか聞こえない奏楽の言い訳も、流してくれた。
 泣きそうな気持ちで、奏楽は優希と部屋の中を片付け始めた。