空色の小鳥は、恋をしていた。

 小鳥遊(たかなし)奏楽(そら)は、明倫学園高等学校の二年生だ。
 学園は全寮制で、同学年の生徒と二人一部屋を宛がわれる。ルームメイトは三年間、変わらない。
 だから、一年生の時点で優希を好きになったのは致命的だった。

『こんなに綺麗に縫えるんだ。小鳥遊は器用だね。ありがとう』

 取れかけていたボタンを、ちょっと直しただけなのに。
 優希が王子様みたいに笑った。
 奏楽の胸が跳ねた瞬間だった。

 奏楽の趣味の手芸を、優希は見付けるたびに褒めてくれる。
 机の上に掌サイズのあみぐるみが増えるのは、優希が可愛いと気に入ってくれたからだ。

 そんなことを繰り返した、夏休みの終わり。
 実家から帰ってきた優希が、奏楽にたくさんの毛糸をくれた。

『姉さんが、もう使わない毛糸をくれたんだ。使ってよ』
『え……いいの? しっかりしてるし、良さそうな毛糸なのに』

 使わないのは勿体ない質感だった。

『小鳥遊にあみぐるみ作ってほしいんだ』
『それは、染谷が欲しいってこと?』
『うん。この水色で、鳥がいいな』

 王子様スマイルが神々しくて、奏楽は素直に頷いた。
 優希がもらってくれるんだと思ったら、秒で作れた。

『小鳥遊みたいで、可愛い。大事にするよ、ありがとう』

 優希の言葉が意味深だと思うのも、あの笑顔を特別に感じるのも、全部自分の思い込みだ。
 そう言い聞かせるのに――胸の奥で恋が動き出した音が、聞こえた。

 あれから、同室が嬉しくて辛くなった。

(だって、ずっと同じ部屋! 朝も夜も一緒!)

 優希が無防備に晒してくれるサービスショットも、奏楽だけに見せてくれる笑顔も嬉しい。
 だけど、気持ちを隠し続けるのが辛い。
 嬉々と鬱々を繰り返しているうちに、二年生になった。
 春休みが終わって寮に帰ってきた途端、部屋の家具が浮いた。
 それ以来、きっかけもわからず家具が浮いて、急に収まるという現象が、時々起こる。

 ベッドに突っ伏していた奏楽は、顔を上げた。
 改めて、宙に浮くゴミ箱や本を眺める。
 
「どうして、こんなことに……何かにとり憑かれてるの? 僕のせいなの?」

 何もかも、さっぱりわからない。
 
「小さな不幸はあったけど、ポルターガイストなんか、初めてだよ」

 机の上のあみぐるみたちが宙を舞う。
 鳥のあみぐるみをぼんやり眺めて、飛んでいるみたいだなと思った。