空色の小鳥は、恋をしていた。

 近くに人の気配を感じた。

「僕……ちゃんと考えるから。何とかする方法、探すから」

 奏楽の声が聞こえた。
 震える指が、優希の頬を撫でる。
 ドアが閉まる音がして、部屋が静かになった。

(奏楽がいない部屋は、静かで寒いな)

 右の肩が重い。寒気が増していく。
 優希の意識が、微睡みに揺れた。

(昨日、あんなことしたから、奏楽の風邪もらったのかな)

 高熱で朦朧としている奏楽に薬を飲ませた。
 錠剤を口に含ませるとき、指先が唇に触れた。

「ぅ……ん」

 小さく漏れた奏楽の声にドキリとして、手を引っ込めた。

「おやすみ……奏楽」

 さりげなく名前を呼んでみたけど、奏楽は気付かなかった。
 冷却シートを貼った指を頬に滑らせた。
 その指を握られて、また心臓が跳ねた。

「染谷の指、温かいね」

 微笑む奏楽が可愛くて、胸の奥がきゅっと締まった。

(俺のことも、颯真みたいに……優希って呼んでくれたらいいのに)

 食堂で颯真と奏楽が話している姿を偶然、見掛けた。
 無邪気に、無防備に、奏楽が颯真にじゃれていた。
 自分にはしない仕草だ。颯真が羨ましいと思った。

 だからというわけでは、ないけれど。
 こういう時、奏楽の傍にいられるのは、自分だけだ。
 
「もう少し水、飲まないと。奏楽、水、飲める?」

 寝入った奏楽から返事はない。
 小さな寝息が聞こえるだけだ。
 さっき、水を飲んで濡れた奏楽の唇を見詰める。

(口移しで飲ませたら、飲むかな)

 ペットボトルの水を含もうとして、手が止まった。

(何を、考えているんだろう。俺、何しようとした?)

 右肩が重い。
 心がざわつくと、右の肩の違和感が増す。
 奏楽に触れてほしいと思うほど、肩が重くなる気がした。
 
(本当はずっと前から、触れてほしくて。名前を、呼んでほしくて)

 優希の指が、奏楽の唇をなぞった。
 粘膜の熱が、指先から流れ込む。
 肩が少しだけ、軽くなった。

「なんで、こんなに……」

 触りたいと思うのだろう。
 
「ん……」

 奏楽が、顔を顰めて寝返りを打った。
 優希は慌てて手を引っ込めた。
 それから逃げるように、優希は部屋を出た。

(あの時、変なコト考えたから……俺が奏楽の風邪もらって、奏楽が元気になったなら、良かったけど)

 熱に浮かされながらぼんやりと、優希は天井を眺めた。
 決して広い部屋ではないのに、一人は、寒い。

(早く帰ってこないかな、奏楽)

 天井を眺めてウトウトしながら、優希はまた目を瞑った。