空色の小鳥は、恋をしていた。

 明倫学園高校は歴史のある学校なので、建物が古い。
 特に男子寮は校舎や女子寮より古いから部屋も狭いし、共同スペースが主だ。
 つまり、一人になれる場所は少ない。

(今時、二人部屋だもんなぁ)

 そのお陰で毎日、素敵な優希を見ていられるのに。
 そのせいで、今は胸が痛いし、部屋に戻れない。
 
 人が通らなそうな階段や食堂、自習部屋などを適当に周回して、点呼近くに部屋に戻った。

「どこに行ってたんだよ、小鳥遊。風呂、入った?」

 部屋に戻った途端、優希が心配そうに声をかけてきた。

「うん……今日は夕ご飯の前に、入った」

 目を合わせずに、自分の机に向かう。

「宿題、終わった?」
「放課後に、終わらせた」
「もしかして、誰かの部屋に行ってた?」
「そうじゃないけど……」

 珍しく質問攻めにされて、言葉に詰まる。

「……あのさ、小鳥遊って、颯真と仲良かったっけ?」

 タイムリーな名前が出て、ドキリとした。

(なんで急に颯真?)

「えっと……二年から同じクラスだから。颯真は後ろの席で、よく話すよ」

 四月は出席番号順で席が決まる。
 颯真と話すようになったのは席が近いからだ。

「そうなんだ……俺とは、一年から同じ部屋なのに」

 優希が顔を逸らして、小さな声で呟いた。
 聴き取れなくて、奏楽は首を傾げた。

「染谷のほうが、仲良しだと思うよ。一年の頃から同じサッカー部でしょ」
「そうだけど……呼び方」
「ん?」

 さっきから、優希の声が小さい。
 奏楽は身を乗り出した。
 優希が、慌てた様子で身を仰け反らせた。

 奏楽の胸に、冷たいものが流れた。

 優希の態度がいつもと違う気がする。それも軽くショックだったが、それだけではない。
 優希の肩の小鳥が、黒い影を帯びて見えたからだ。

(昨日までと、雰囲気が違う。笑ってないし……怖い)

 水色の小鳥が纏う気が黒くて、目が座っている。
 その目が、奏楽を睨んでいるように見えた。
 ぞっと、背中に寒気が走った。

「あ……小鳥遊、今日も、肩……」
「ごめん、今日は無理!」

 考えるより先に言葉が出た。
 あの小鳥に、今は触りたくない。

(どうしよう、怖い。よくわからないけど、触っちゃいけない気がする)

 震えそうになる自分の手を、強く握った。

「ちょっと、調子悪いみたい。先に寝るね。おやすみ!」
「え? ……小鳥遊!」

 優希の顔も小鳥も見ないように背を向けて、奏楽はベッドに逃げた。
 隙間も開かないようにしっかりカーテンを閉めて、布団に潜り込んだ。

(放っておいたら、染谷がどうにかなっちゃうの? でも、僕にできることなんか、何もない)

 震える体を両手で抱いて、奏楽は布団の中で丸まって、耳を塞いだ。
 今は優希の声も、聴きたくなかった。