覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「……という感じですね」

 ディアナにホラーツを探るように命じたのだが、早速、成果が出たようで早々に戻ってきた。
 どうやら先ほどまでホラーツと文官のマルセルが屋敷で私のことについて話していたようでその内容を聞いたのだ。

「ふーん……やはり婚姻か」
「あの人、40歳くらいだよね? 私と? えー……」

 ミーネは嫌そうだ。
 まあ、喜ぶのはそういう男が好きな女だけだろう。

「お嬢様が言うように言いなり人形にする感じですね。それで自分の地位を上げたい感じでした」

 ふーむ……

「ミーネ、結婚するか? 平和に解決ぞ?」
「ちょっと……」

 だろうな。
 私も嫌。
 15歳になったらすぐにでも手を出してきそうだし。

「マルセルは諫めたわけか?」
「はい。ヘルミーネ様をただの少女ではないと言い、危険だと……それと帝国の情勢についても言及しておりました」

 ふむ……

「あの優男、ただの凡夫ではなかったか」

 さすがはホラーツが紹介してくるだけはあるな。
 間違いなく、ここの政治はあの男がやっているのだろう。
 貴族には見えなかったし、地元の文官だろうによく国全体を見ておる。

「マルセルは家に帰った後も悩んでいる様子でした。酒の進みもかなり早かったですし、やけ酒のように感じましたね」

 このままではマズいと思っているわけだ。

「ミーネよ、相談がある」
「なーに?」
「マルセルは即刻、殺すべきだ」

 生かしてはおけぬ。

「え? なんで? 話が飛びすぎじゃない?」
「ふむ……では、説明しよう。マルセルはそこらの役人ではない。帝国の情勢が見えているし、戦略に長けておる。とはいえ、自身で何かをできるほどの力を持っていない。このままではあやつ、ホラーツを見限り、ザームエルにつくぞ」

 有能な男だと思う。
 ちゃんと計算ができる。

「なんでザームエル兄様に?」
「奴は私と同じように父が反乱を起こすところまで見えていよう。そうなった時にザームエルは間違いなく、ここを攻めてくるし、あのホラーツでは勝てまい。だから先んじて向こうにつくのだ。ザームエルも地元に詳しい役人を引き入れるのは歓迎するし、攻めるのも楽になるから厚遇する」

 そこまで見えたら天秤にかけるまでもない。
 地元を裏切る形になるが、戦争が早く終わるし、結果的には地元を助けることになる。

「そうなったら困るから先に殺してしまえってこと?」
「そういうことだ。もし、奴がザームエルについたら私でも厳しくなる」

 奴はこの町どころか、この地方全体の情報をすべて知っていると言っていいのだ。

「うーん……殺すのは反対かな?」
「では、どうする?」
「いっそこちらに引き入れてしまえば良くないかな?」
「ホラーツを見限り、私につけか? ザームエルにつくと思うぞ」

 こっちはただの少女だ。
 選択肢にも入っていないだろう。

「そこは頑張って」

 簡単に言うのう……
 文官は利を優先するからこちらが優位な時は説得が楽だが、逆に悪いと非常に難しいんだが……

「ディアナ、お前はどう思う? マルセルを殺すか、引き入れるか」
「優秀な人間なら引き入れるべきでしょう。それに地元の役人を殺すのは得策ではありません。他の役人が恐れ、逃げ出すことも考えられます」

 2対1……ユルゲンは何と言うか……
 いや、ミーネがこう言っているのだからそうやってみるか。

「話をしてみる……ディアナ、明日、マルセルを呼べ。ホラーツに歓迎会をキャンセルしてしまった詫びの贈り物をしたいからその相談ということで良い」

 これならマルセルは断れないし、ホラーツも悪い気はしないだろう。

「いえ、ホラーツが明日、見舞いに行けとマルセルに命じていました。勝手に来るかと」

 ほう?
 それは都合が良いな。
 そこで殺してしまえば……いや、違う。
 話をすればよいか。

「わかった。来るのを待つか」
「はい。お嬢様、もう遅いですし、お休みになってください」

 時刻は11時を回っている。

「ユルゲンは?」
「夜通し調査でしょう。飲み屋で話を聞いていると思います」

 ふむ……まあ、任せればよいか。
 話は明日聞こう。

「わかった。もう寝ることにする」
「ええ。ささっ、ベッドに行きましょう」

 ディアナに促され、ベッドに向かう。
 そして、灯りを消し、就寝した。

 翌日、朝食を食べると、ミーネと書斎で本を読む。
 いつもいるディアナは新人メイドいびりに忙しいのでこの場にはいない。

『お嬢様、今よろしいでしょうか?』

 ノックの音と共にユルゲンの声が聞こえる。

「入れ」
「失礼します」

 ユルゲンが扉を開け、一礼して部屋に入ってきた。

「帰ってたのか」

 朝食の際は姿がなかった。

「ええ。朝方に帰り、少し仮眠を取っていました」
「ご苦労さん。それでどうだ?」
「町の人からの評判は悪くないですね」

 ほう?

「そうなのか?」
「政治自体は悪くなさそうですし、数年前に雨が少なく、農作物があまり採れない時があったのですが、その際も税金の免除どころか、補助までしていたようです」

 マルセルか……

「それは明主だな」
「ただ、一方でスラム化している壁の方の区画への処置は不満がありますね」

 あれか。

「スラムは見たか?」
「はい。原因は貧困ですね。職にありつけない者が集まっているみたいです」

 ふむ……

「そんなところか?」
「いえ、まだあります。実は飲み屋で兵士の団体の一緒になりまして、そこで話を聞きました」

 兵士か。

「どうだ?」
「評判はすこぶる悪いです。私腹を肥やしているだの、当たりが強いだの、不満が大きそうでしたね。どうやら役人も含め、ホラーツに仕えている者はそう思うらしいです。良くない噂もあり、御付きのメイドに手を出したとか、商人を不当に捕え、財産を没収したとか」

 真偽はともかく、部下に好かれてはいないようだ。

「その場でマルセルの話は聞いたか?」
「ああ。マルセルは評判が良かったですね。ただ、過労死するんじゃないかって言われてました」

 なるほどな。

「ディアナから昨日の話は聞いたか?」
「ええ。今日、そのマルセルが来るんですよね? いかがなさるのですか?」
「話をしてみる。ちなみにだが、お前はどう思う?」

 考え始めたユルゲンはどう思うか……

「殺すべきではありません。生かして、上手く使うべきです。お嬢様の読みが当たった場合、時間がありません。そのままマルセルに政治を任せるのが最上かと思います」

 3対1……どうやら私は間違っているらしい。

「人手が足りぬし、そうするか……」

 やはり宰相と参謀と元帥、それに弟が欲しいわ。