「ミーネ、それにディアナとユルゲン、これから帝国がどうなっていくかを話す。とはいえ、これはあくまでも私の読みであり、実際にどうなるのかはわからない」
「話して」
「お聞きしたいです」
「お願いします」
3人が頷く。
「よろしい。政変が起き、帝国は複数に分かれるだろう。要は内乱が起き、さらには周辺国もこれに介入する。血みどろの群雄割拠の時代が訪れる」
多分、そうなる。
「お嬢様、どういうことでしょうか? 何故、そのようなことが?」
ディアナが聞いてくる。
「簡単だ。原因は皇帝があの晩餐会で後継者を決めなかったことにある」
あの場面で弟に任せるとか、太子を立てるとか、何らかの言葉を出さないといけなかった。
「確か、3年で結果を出した者を次の皇帝にするんでしたよね?」
「ああ。そう言われた。あの場にいた全員が思っただろう。バカか、と……」
少なくとも、あの席に座っていた帝位継承権を持つ皇族共はそう思ったはずだ。
「何故でしょう?」
「皇帝陛下は68歳と高齢だ。いつ死んでもおかしくないし、死ななくても病気になり、政治ができない状態になってもおかしくない。そんな中で3年などと悠長なことを言っている状況はないのだ。それに加えて、3年で何がわかる? これまで何十年と後継者候補を見てきて、決められなかったことなのにあと3年を加えたところで何もわからないだろう。後継者争いは何も今日から始まったわけでもなく、ずっと前から起きているのだからな」
それを皆がわかっている。
「それでは何故、陛下がそんなことを? そう言われると、皇帝が暗愚に思えます」
「暗愚で合っている。いや、ただの優柔不断の暗愚なら問題ない。ここで問題なのは、皇帝がこの3年で後継者を見極める気がないということだ」
3年という期間はそうだろう。
「どういうことでしょうか?」
「順当に考えれば次の皇帝は長男のフェリックスだ。勇敢そうには見えなかったが、晩餐会でも私に声をかけてくれ、皆を紹介してくれた。あれは空気が読めるし、周りを気遣える男だ。厄災の子であり、あの場を乱した私にすらそうするくらいだし、臣下から人気がある男だろう」
私なら迷わず、あの男を太子にするし、何ならもう引退して、帝位を譲っている。
「確かにフェリックス様は良い噂しか聞きませんね」
「ええ。フェリックス様は気さくに声をかけてくれると兵士達でも評判です」
ディアナとユルゲンが頷く。
「そうだろうな。本来ならもう何十年も前にフェリックスを太子にし、父に補佐をさせれば良かったのだ。そうすればこんなに揉めることもないし、皇族共が変な野心を持つことはなかった」
特に父。
「野心ですか?」
「ああ。自分達にも可能性がある。いや、自分こそが皇帝になるべきだ。そう思う者は多かろう」
あんなのでも皇帝が務まるくらいだし……
「しかし、お嬢様。何故、陛下はフェリックス様を太子にしないのでしょうか?」
「さあな。まあ、嫌いなんじゃないか? 皇帝は自身が帝位につく際に政争に勝っておる。そんな中で政争もなく順当に帝位に就こうとしている子に苦労をかけたいのかもしれない。そんなところじゃないか?」
詳しくは知らない。
「それは……ま、まあ、予想ですよね?」
ディアナもバカかなと思っているっぽい。
「ああ。予想だ。だが、これから話すことは予想ではない。我が父レナード公爵は動くぞ?」
「公爵が? 反乱を起こすのですか?」
「起こす。この3年以内にな。いや、3年も待たないし、かなり近い時期だろう」
明日でもおかしくない。
「何故、そう言い切れるのでしょうか?」
「私を殺そうとしたからだ」
「それは……すみません。何故でしょうか?」
ディアナは考えんな。
ユルゲンはわかっているようだぞ。
「父は皇帝の弟だし、帝位継承権は長子のフェリックスに次ぐ2位だろう。フェリックスに芽がないなら自分だ。あやつはあの晩餐会が始まる前から皇帝になる気だったんだ。だから厄災の子という不名誉を処分しておこうと考えた。だが、晩餐会に行ってみたら3年で決めるという。これは自分にも芽がないという意味になる。父も高齢だからな」
父は58歳。
3年後は61歳だ。
「当てが外れたわけですか」
「ただ外れたわけではない。3年という時間が何を意味するか……これは邪魔な自分とフェリックスを排除するための時間と考える」
「そ、そうなのですか?」
「実際は知らん。しかし、レナード公爵派閥とフェリックス派閥はそう考える。そして、この3年は向こうがそうであるように自分達も動く時間だと考えよう。必ず、どちらかが皇帝を排除する動きを見せるぞ。まあ、歳を考えたら父だろうがな。高齢な父には時間がないのだ。そして、私を排除しようとしたことで親族からの信頼はなくなっている」
実の娘すら殺そうとする者を誰が信用するか。
「皇帝の子供達は誰もレナード公爵にはつかないわけですね」
「ああ。時間が経てば経つほどに父は不利になってしまうのだ。どうだ? 悠長にしている時間があるか? レナード公爵がクーデターを成功させると、この国で一番危うい立場になるのはどこの聖女だ?」
すでに私と父は修復不可能ならレベルで敵対している。
もっとも、最初からそんな良い関係ではないがな。
「お嬢様、動くべきです」
「もはやホラーツなどにかまけている時間はないかと……早急に実権を奪い、来たる戦争に備えるべきです」
私は最初からそう言っている。
「ミーネ、どう思う?」
これまで黙って聞いていたミーネに聞く。
「やっと落ち着いた生活が送れると思ったのに危険なんだね」
「ああ。私達には力がない。現状では何もできないのだ。どう転んでも捕えられ、父のもとに送られて首を刎ねられる」
そんな薄氷の上にいるのが私達なのだ。
「わかった……動くのは私も賛成する。でも、方法を考えるべきだと思う。いきなりホラーツさんを殺したらそれこそ以前のノーレのままだよ」
そうだろうな。
死後に反乱を起こされまくった私のやり方だ。
「ディアナ、ユルゲン、お前らは元々、暗部であり、隠密の真似事ができたな?」
「真似事ではなく、本職です」
私を殺せなかったくせに。
「では、仕事だ。ディアナはホラーツを探り、ユルゲンは町を探れ」
「「かしこまりました」」
2人は一礼し、部屋から出ていった。
「ミーネ、まずはあの男がどうなのか、そして、この町での評判を探る。それから決めようではないか」
「うん。わかった……ノーレ、私は争いのない平和な国を築きたい」
知っている。
「そうしよう。そのために動いているのだ」
「このままでは反乱が起き、国が割れちゃうんだよね?」
「ああ。そして、それは避けられない。あの晩餐会は帝国の分岐点だったのだ」
もうダメだ。
「ならその争いを早く終わらせたい」
「そのために犠牲が出ても良いか? 戦争だ」
「平和のための仕方がない犠牲とは言えない。でも、やらないといけないならやる。主のもとに行けなくなるかもしれないけど、それは甘んじて受け入れる。私は聖女じゃない」
よろしい。
「では、そのようにしよう。まあ、戦争は任せておけ。私が負けるなんてありえない。どんな兵力差であろうと、不利な状況であろうと、生涯で負けたことがないのだ」
これは本当。
すごいだろ。

