覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


 執務室の席につくと、ユルゲンが淹れてくれた茶を飲み、一息つく。

「ユルゲン、あの者達は?」
「町の名士に紹介してもらった子達です」

 ふーん……

「ウチで働く動機は?」
「働き口を探していたようです。それで名士が声掛けしたらぜひとも聖女様のもとで働きたいとのことです」

 聖女ね……
 正直、武を重んじる私は好きな称号じゃない。
 でも、結構、役に立っているんだよな。

「わかった。まあ、良いだろう」
「そちらの方はどうでしたか? ホラーツ殿を訪ねたんですよね?」
「色々わかった。どうするかは考える」
「さようですか……」

 ふむ……

「ユルゲン、お前はどうするべきだと思う?」
「臣下の私はお嬢様の決定に従います」
「献策くらいはせんか」

 人形はいらぬ。
 人形は兵士だけでいいのだ。

「では……やはりどうにかして引き込む必要があるでしょう。ホラーツ殿では北のザームエルと戦えるかどうか」
「無理だと思うな。下手をすると、私を引き渡すかもしれん」
「お嬢様、私は強硬策に出ても良いかと思っています」

 そうか。

「もうよい。十分だ」
「最終的にはお嬢様の決定に従います」
「はいよ。ディアナの手伝いをしてやれ。私はここで本でも読んでる」
「かしこまりました」

 ユルゲンが一礼し、退室していったのでミーネと共に本を読んでいった。
 そして、夕方になると、食堂で夕食を食べる。

「デリア、羨ましそうに料理を見ない」

 私が夕食を食べていると、控えている先輩メイドが新人メイドに注意する。

「すみません……お腹が空いたもので……」

 もう19時だもんな。

「ディアナ、明日から先に食わせよ。顔以前に腹が鳴っておる」

 静かだから響くのだ。

「申し訳ございません、お嬢様」
「「申し訳ございません……」」

 小と大メイドも謝る。

「よい」

 食事を終えると、風呂に入った。
 そして、寝巻きに着替えると、寝室のベッドでリーネと本を読む。

「良さそうな子達だったね。まあ、私よりも年上そうだったけどさ」

 ミーネどころか下手をすると、ディアナよりも上だぞ。
 あいつ、偉そうだし、大人びているが、まだ15歳だ。

「素直そうだったし、よく働いてくれるかもしれない。それもミーネが聖女だからだろう」
「聖女かぁ……でも、私じゃなくて、ノーレだよ」

 押し付けるな。

「お前の選択だ。私なら絶対に呼ばれていない」
「えー……そうかなー?」

 そうだよ。

 私達が話していると、ディアナが部屋に入ってきた。

「お嬢様、3人を帰らせました」
「ご苦労さん。明日でいいから支度金を渡せ。それで身なりを整えさせろ。人は私だけでなく、配下の者も見る。いかに私が着飾ろうと、周りの者がみすぼらしかったらそう評価する」

 下手をすると、下の者を顧みない主君と評価され、人が集まらなくなる。

「わかりました。そのように致しましょう」
「それとあまりガミガミ言わなくていいぞ。ゆっくり教えてやれ」
「かしこまりました」

 ディアナは頷く、テーブルにつき、編み物を始めた。

「前から編んでおるが、何を作っておるのだ?」
「マフラーです」

 ほう?

「恋の予感!」

 私も感じた。

「ユルゲンか?」
「お嬢様です」

 10歳の少女とババアの予感は見事に外れた。

「そうかい……」
「ちぇー……」

 残念。

「ディアナ、作業をしているところ悪いが、ユルゲンを呼んでくれ」
「少々お待ちください」

 ディアナは立ち上がり、部屋から出ていく。

「さて、ミーネ、これからのことだ」
「もう?」
「お前、あやつの操り人形になりたいか?」
「うん……それはちょっと……」

 ミーネが難色を示すと、ディアナがユルゲンを連れて戻ってきた。

「お呼びでしょうか?」

 ユルゲンが聞いてきたが、手で制する。

「このままではそうなるぞ。あやつの目を見ただろう? あれは私を自分のものにする気だ」
「やっぱりそう? 目がちょっとそんな感じだった」

 ミーネも世間知らずとはいえ、女子だ。
 男の目はわかる。

「それ以外にない。厄災の子と呼ばれ、帝都から逃げ落ちた私を過度な待遇をするのも、聖女であることを町に言いふらしているのも、自分の力を誇示するのも、すべて皇族である私を娶り、自らの地位を上げるためだ」

 力もなく、逆らうこともできない。
 それでいて、聖女として評判の良い皇族。
 これほどの甘い蜜はないだろう。

「私、10歳だよ?」
「関係ない。皇族なら普通だ」

 政略結婚なら一桁でも結婚する。
 中には50オーバーのジジイが5歳の子を娶るというのもあるのだ。
 まあ、ただの政治的な結婚だからさすがに子を生むとかそういうことにならないが。

「うーん……そうなると?」
「1、2年だろうな。それで私はあやつの名を高めるだけの人形になる。以降はパーティーの時以外は部屋からも出られん生活になるな」

 嫌だね。

「どうするの?」
「それを考えるわけだ。ディアナ、ユルゲン、お前達はどう思う?」

 2人に聞く。

「私もあの男は信用ならないと思います。あんな大勢の兵士を連れて迎えに来た時から嫌な気持ちになりましたし、あの男のお嬢様を見る目は皇族を見る目ではありませんでした」

 ディアナもそう思っていた。

「ユルゲン」
「私は昨日と変わりません。あの男の思惑がどうであれ、あの男ではお嬢様を守れないでしょう。目下の敵は北のザームエル。地理的にも非常に不利です。強硬策を考えるべきです」

 ふむ……

「ミーネ、2人はこう言っている」

 お前はどうかな?

「2人の意見もノーレの意見もわかる。でも、こんなに良くしてくれたホラーツさんを簡単に排除するのはどうかな? ノーレを説得する意味で言うけど、評判が落ちない?」

 落ちるかもしれないな。
 来て早々に乗っ取ることになるわけだし。

「私は評判より、利を取るべき場面だと思っている。そこまで悠長にはできないのだ」
「なんで? ノーレはこれから帝国がどうなると思っているの? そこを話してくれないと何も決められない」

 それもそうだな……