「それでは今後ともよろしくお願いします。それと本日の夜に歓迎会を開いてくださるとお誘いいただいたのですが、申し訳ございません。やはり長旅の疲れが取れておりませんのでまたの機会にしていただきたいです」
もう時間の無駄だ。
「さようですか……そういうことでしたら仕方がありません。体調が戻られた時にまた誘わせていただきます」
「ぜひ」
ニコニコ。
「あ、ヘルミーネ様、少々、お待ちいただけますか? 実は今日の歓迎会で紹介したい者がいたのです。これから紹介してもよろしいでしょうか?」
そう言ってたな。
「ええ。もちろんです」
「では、少々、お待ちください。連れてまいります」
ホラーツはそう言って、立ち上がると、部屋を出ていった。
「お嬢様……」
「何も話すな」
「はい」
ディアナを窘め、そのまま待っていると、扉が開き、ホラーツと20代くらいの男が部屋に入ってきた。
男は男にしては長い髪をした優男であり、武官のようには見えなかった。
「お待たせしました」
「いえ。そちらの方は?」
「ご紹介します。ウチの文官であり、実務を担当しているマルセルです。マルセル、ヘルミーネ様だ」
ホラーツが紹介すると、マルセルが跪く。
「マルセルでございます。聖女と名高きヘルミーネ様にお会いできて光栄です」
「ヘルミーネです。お世話になります」
いや、誰だ?
てっきり町の名士でも紹介してくれるのかと思ったが。
「ヘルミーネ様、こちらの者は優秀でして、私も安心して実務を任せている男です。私は必ずしも屋敷におりませんし、町を出ていることもあります。もし、何かあり、私が不在の時はこの者に言ってください。昼間であればここで働いておりますし、夜はこの屋敷の裏に家がありますのでそこにおります」
あー、そういうことね。
「わかりました。マルセル様、よろしくお願いします」
「こちらこそ……何なりとお申し付けください」
ふーむ……
ちらっとディアナを見る。
「ホラーツ殿、マルセル殿、お嬢様をよろしくお願いいたします。それと申し訳ございません。やはりお嬢様はまだ体調がよろしくなく、この辺でお暇させていただきたいです。本日も約束をしたからと強引に来てしまって……」
うんうん。
良い感じの切り上げ方だ。
「それは申し訳ございません。身体を大事になさってください」
「ホラーツ様、こちらこそ申し訳ございません。あまり身体が強くないもので……」
「いえいえ」
「すみません……では、この辺りで失礼します」
そう言って、立ち上がると、部屋を出た。
そして、屋敷も出ると、大通りを歩いていく。
「お嬢様、いかがしますか? このまま屋敷に戻りますか?」
「うーん……実は壁の方の町を見たかったのだが……」
「やめた方がよろしいかと……お嬢様は思っていた以上に名声が高くなっております。治安が悪そうですし、そちらの調査は後日、ユルゲンにやらせた方が良いでしょう」
そうなんだよなぁ……しかし、私が聖女て……
ここに来るまで2、30人は殺したぞ?
「教会に行きたい。場所はわかるか?」
「ええ。案内しましょう」
そのまま歩いていき、屋敷に通じる道を通り過ぎる。
そして、ちょっと歩き、右に曲がると、教会にやってきた。
「ここか」
そんなに大きくないな。
「当たり前だけど、他所の教会に来るのは初めてだなー。どんな感じだろう?」
「さあな。入ってみよう」
教会に入ると、奥にまだ20代前半くらいの若いシスターが見えた。
「失礼します」
声をかけると、シスターがこちらを見て、目を見開く。
「おー……聖女様!」
シスターが興奮した様子でこちらにやってきた。
「こんにちは。昨日、この地にやってきたヘルミーネです。教会に挨拶とお祈りに参りました」
「ありがとうございます。私はここでシスターをしているコルネリアです」
コルネリアが微笑む。
「よろしくお願いします。それでちょっと聞きたいのですが、私が聖女なんですか?」
「ええ。主の声を聞き、帝国を救済する聖女様と聞いています」
うーん……
「誰がそのようなことを?」
「誰がかはわかりませんが、帝国中の全教会が把握していることです」
そうなのか……
「町の人が知っているのは?」
「領主様に報告したのでそちらではないでしょうか? 報告をしたら領主様が寄付をしてくださいましたし」
あー、はいはい。
「さようですか。身に余りますが、町の人が認識しているのならそれに恥じない行動をしましょう。お祈りを」
「ええ。どうぞ、こちらへ」
コルネリアと奥にある女神像のもとに向かう。
そして、ミーネと共に女神像に向かって跪いた。
「主よ、争いのない世界を望みます。どうか、我らをお導きください」
「主よ、争いのない世界を望みます。どうか、我らをお導きください」
久しぶりのお祈りなので長々と祈ると、目を開き、立ち上がる。
「神父様はおられないのですか?」
というか、シスターが1人だけ?
「神父様は高齢なので休みがちですね」
なるほど。
「わかりました。では、ヘルミーネが来たとお伝えください」
「はい」
「それではこれで失礼します」
「ヘルミーネ様に祝福を」
私達は教会を出ると、来た道を引き返していく。
「お嬢様、次はどうしますか?」
「もう帰ろう。体調不良と言ったのに町を練り歩くわけにはいくまい」
さすがに不審に思うし、向こうは良い気がしない。
「では、帰りましょうか」
私達は大通りを歩いていき、屋敷への丘の道を登っていった。
そして、ちょっと疲れながらも登りきると、屋敷に入る。
すると、エントランスにはユルゲンがおり、その前には3人のメイド服を着た若い娘が立っていた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。ちょうどいいです。メイドを雇いましたので紹介させてください」
もう雇ったのか。
早いな。
「紹介せよ」
「はっ! 右からデリア、リーゼル、リヒャルダです」
ユルゲンが順々に紹介していくと、名前を呼ばれるたびに女達が頭を下げた。
デリアは小柄で肩くらいまでの茶髪の子、リーゼルは細身で青みがかかった黒髪でショートの子、リヒャルダは女性としてはちょっと高い赤い髪の子だ。
身長が見事に三段階だし、大中小と呼ぼう。
「よろしく」
「「「よろしくお願いします」」」
素直な子達だな。
「ディアナ、仕事を教えてやれ。ユルゲンは茶を淹れてくれ」
「「はっ!」」
2人が返事をしたので階段を上がっていくと、執務室に入った。

