覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「お嬢様、お嬢様、さすがに起きてください。もう10時ですよ」

 ディアナが起こしてくる。

「私は9時に起きたが?」
「すみません……私もユルゲンも寝過ごしました」

 やっぱりか。

「よい。風呂や布団はどうだった?」
「お風呂は涙が出ました。ベッドは倒れてすぐに意識が飛びましたので記憶にありません」

 相当、疲れてたな。

「仕方がない。朝食にしよう」
「ええ。その前にお着替えを」
「はいはい」

 部屋についている洗面所に向かい、顔を洗った。
 そして、修道服に着替えると、鏡台の前に座り、ディアナが髪を解いてくれる。

「ユルゲンは?」
「出ました。昨日、片付けなどをしましたが、やはり我々だけでは屋敷の維持が難しいです」

 広いしな。
 それにユルゲンもディアナも私の世話をする侍従である。
 本来、そういう掃除なんかをするのはまた別の人間なのだ。

「ディアナ、ホラーツをどう思う?」
「まだ何とも……」

 ディアナはこういう感想か。
 やはりユルゲンとは違う。

「朝食を食べたらホラーツの屋敷に行こう」
「馬車を手配しますか?」
「よい。街並みを見たいし、歩いていこうではないか」
「かしこまりました」

 髪を整え終えると、1階に下り、朝食を食べる。
 そして、ディアナが片付けをしている間に食後のお茶を飲むと、屋敷を出た。

「ディアナ、私の剣は持っているな?」
「ええ。腰につけていきますか?」
「いや、失礼になるし、やめておこう。私は世間知らずで何もできない箱入りの令嬢だ。いいな?」
「かしこまりました。それでは参りましょうか」

 私達は丘を降りていく。

「徒歩だとこれを登り降りか」

 ミーネは浮いてて楽そうだな。
 まあ、私が疲れたらミーネも疲れるんだが。

「そうなりますね。きつくなったら言ってください。おぶりましょう」
「いらんわ」

 私達は丘を降りると、大通りを歩いていくが、やはり人が多い。
 大都市という感じではないが、中規模都市の中ではかなり上位に入るだろう。

「人々の生活は悪くなさそうですね」
「そうだな。昨日、買い物に行ったな? その時はどうだった?」
「同じ感じでしたよ。ただ、気になるのは皆がお嬢様を知っていたことです」

 ん?

「どういうことだ?」
「私がメイド服だったこともあるのでしょうが、行く先々で帝都からやってきた聖女様のお付きの者ですかと聞かれました」

 聖女……そういえば、通り過ぎる人がチラチラとこちらを見ている。
 メイドと修道女の組み合わせが気になっていると思っていたが……

「教会か?」
「どうでしょうか? そこまでは……」

 ふーむ……

「まあよい」

 私達が歩いていくと、昨日、屋敷の上から見たホラーツの屋敷が見えてくる。

「兵士がいますね」
「私を迎えに来るのに常備兵をすべて連れてくるくらいだからな」

 太っているし、武官ではなく、文官だろう。
 うん、臆病なんだろう。

 私達が屋敷に向かうと、警備をしている兵士がこちらに気付いた。

「こんにちは」
「これはヘルミーネ様、よくぞおいでくださいました。今、領主様をお呼びしてきますので少々、お待ちください」

 兵士は笑顔でそう言うと、屋敷の中に入っていった。

「ふーむ……聖女か」
「どうしました?」

 ディアナが聞いてくる。

「私は厄災の子だから忌避されるものだと思うんだがな……」

 すまん、ミーネ。
 でも、落ち込むな。
 前を向け。

 そう思っていると、ミーネが顔を上げた。

「聖女としか伝わってないのでは?」
「そんな気がする」

 私達が待っていると、すぐにさっきの兵士がホラーツを連れて戻ってきた。

「おー、ヘルミーネ様、よくいらしてくれました。どうぞ、中へ。お茶でも飲みながらゆっくりと話しましょう」
「ありがとうございます」

 ホラーツに促され、中に入る。
 すると、屋敷の作り自体は私の屋敷と同じなのだが、こちらは多くの調度品や美術品が飾られており、豪華だった。

「すごいですね」
「おー……」
「ウチとは違いますね」

 ちらっ。

「はは。これらは私の趣味ですよ。それとあの屋敷を使っていた以前の領主はそういうのが好きじゃなかったんです。もし、ヘルミーネ様が飾りたいとおっしゃるのなら相談してください。私はちょっと詳しいですので」

 ふーん……

「いえ、私は教会の人間です。主に祈る場所さえあればいいです」

 鎧でも飾ろうかな?

「さすがは聖女様ですね」

 こいつも聖女であることを知っている……

「あの、聖女とは?」
「おや? 知らないのですか? 教会がヘルミーネ様を聖女と認定していますよ」

 シスター・アルビーナかな?

「そ、そうですか。そんな大層な呼ばれ方をすると恥ずかしいですね」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ささ、どうぞ、こちらへ」

 私達はホラーツに案内され、奥にある応接室に通された。
 そして、テーブルにつき、メイドが淹れてくれたお茶を飲む。

「美味しいですね」
「ははは。ありがとうございます。それと改めまして、ようこそ、我が領地へ。ヘルミーネ様に来ていただけるとは光栄です」
「こちらこそ、受け入れてくださり、ありがとうございます。それと屋敷や資金まで提供していただき、大変助かっております」

 感謝、感謝。
 主に感謝。

「当然のことです。それでですね、ヘルミーネ様は陛下より領主に任じられました。これは当然のことと思います。しかし、ヘルミーネ様は教会で働いていた御方ですし、いきなり政治をしろと言われても難しいでしょう」

 なるほどな。
 もうこいつの目的がわかった。
 ミーネの勘は正しかったな。

「ええ。私には無理です。陛下より名ばかりの飾りと言われておりますし、その通りにしたいと思っています」
「わかりました。それでは引き続き、私の方で担当させていただきます。もちろん、ヘルミーネ様に苦労はかけさせませんし、陛下より、事情は聞いておりますのでレナード公爵の刺客が来ないように警備は万全にしたいと思っています」

 どうも。

「何やら何までありがとうございます。ホラーツ様が頼りです」
「ははは」

 わかりやすいな、こいつ。